俺が彼女に抱いている感情は、端から見れば愚かなものであろう事くらい分かっている。 それでも抱かずにはいられない。 「猿飛君。」 彼女の鈴の音のような澄んだ声で名前を呼ばれれば、それだけで心が満たされる。 「先生、今日も綺麗だね。」 「あら、お世辞が上手。一体何人の女の子を泣かせてきたのかしら?」 「そんなに泣かせたつもりは無いんだけどねー。」 クスクスと笑う彼女の唇に引かれた赤いルージュは、俺にとっては毒のよう。 彼女が喋るのにつれて赤い唇も動いては、俺の網膜に残像を焼き付ける。 「あんまり女の子泣かせちゃダメよ?女の復讐は怖いって言うんだから。」 「はいはいっと。分かってますよ。」 俺より低い背、力を込めれば簡単に折れそうなくらい細い体。 そこから発せられる色香は、同年代の女子には無い、大人のもの。 くらり、と立ち眩み。 無意識に手を伸ばし掛けて、彼女がゆらりと動いたおかげでハッと気がつき、すんでのところで手を止める。 「もう授業が始まるんだから、早く教室に戻りなさい。」 そんな俺の様子に気付かない彼女は、手を伸ばして俺の頭を軽く一撫で。 ふわりと漂う彼女特有の香りに酔いながら、俺は「分かった」と頷いた。 「先生、またね。」 へらりと笑って、手を振る。 振り返してくれた彼女の左手の薬指には、眩く光るシルバーのリング。 華奢な彼女によく似合う、贈り主のセンスの良さそうなそれ。 俺はそれからそっと目を離して、今日もまた彼女への恋慕を募らせる。 「秘めごと」さま提出 無意識の誘惑に胸焼け [Back] |