カシャリ

音を立てて、風景が切り取られる。

カシャリ カシャリ

二度と見ることは叶わない、その一瞬を切り取る音が辺りに響く。ファインダー越しに見る世界は、いつも見ている何気ない景色も変わって見える。

私は昔からこの音が好きだった。
今は亡き祖父が、写真家だった影響もあるのかもしれない。昔よく入り浸っていた祖父の自宅兼仕事場にあった、幼い頃の自分よりも高い背丈の景色を切り取るそれがどんな玩具よりも好きだった。

それは成長して高校生になった今も変わらず、いつも片手に小さなカメラを持って出掛ける。
写真家だった祖父が、最後に私に残してくれた宝物。

「今日も沢山撮れたなー…。」

そして1日の終わる時に宝物で切り取った風景を眺めるのだ。
校舎、校庭、花壇。ものだけじゃなくて、先生やクラスメート、学校に住み着いている猫達。
切り取ったそれらを見る時間はこの上なく幸せな時間。

今日もまた、放課後の一人っきりの教室でカメラを眺める。
すると、いきなり頭の上から声が降ってきた。

「何をしている?」

びっくりして見上げれば、純粋に不思議そうな表情を浮かべて私を見下ろす石田くん。

「石田くんこそ。下校時間なんてとっくに過ぎてるから、誰もいないって思ってた。」
「私は生徒会の仕事をしていた。」
「あー…なるほど。いつもお疲れ様。」

そうしてまた視線を手元に戻せば、握っていたカメラはそこには無くて。
キョロキョロと辺りを見渡せば、石田くんの手の中にそれはあった。

「あ。」

返して、と言うより早くカメラは私の手元へ戻ってきた。
そしてそのまま彼はくるりと体をまわしてドアに向かって歩いていく。もう帰るのかなってぼんやりと思えば、またこちらへ声を掛けてきた。

「貴様の写す世界では、私はそのような顔をしているのだな。」

ピシャリと音を立てて閉まったドア。ぼんやりとしていた私はその音でようやく気付く。その時にはもう足音も聞こえなかった。

もうすぐ暗くなるし、そろそろ帰ろうと手元のカメラを見てみればメモが1つ。

「貴様の撮った写真で良いのがあればここへ送れ。」

綺麗な文字で書かれた言葉と共に添えられた、アルファベットと数字の羅列。
そしてカメラには穏やかな笑みを浮かべた石田くんが小さく写っていた。


また明日!


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