「遅い…」
携帯の画面を開いて画面を確認すればもう予定の時間を30分も過ぎている。
あいにく今日はデート日和といっていいほど天気が良いためもちろんお日様は輝いている。そう肌に痛いくらいに。
日焼け止めは塗ってきたけれどこんなに外にいては汗で落ちちゃうじゃない。
隠しきれない苛立ちがとうとう限界に達した私は慣れた操作で電話帳から丸井の文字を探し出すと通話ボタンを押した。
「…はい」
「ブン太今何時だと思ってるの?」
何回目かのコールの後聞こえた彼の声はまるで今起きましたと言わんばかりに眠たそうで私の怒りはまさにぷちっと切れそうだった。
「メンゴ…今何時…?」
「1時30分!」
「あー…まじか」
やっちまった…と少しだけ下がるトーンに反省はしているのかと私もブン太の疲れをもう少し気遣ってあげるべきだったかなと思う。
日頃部活で時間がとれない彼にわがままにも会いたいと言ったのは私だし…。
少し考えた後私はしょうがないか、と口を開いた。
「今日は帰るよ、ブン太疲れてるでしょゆっくり休みな」
残念だけど学校に行けばデートまでとはいかないけれどあえる時間はあるし、と思うと電話の向こう側から少しの沈黙の後ブン太から意外な言葉が飛んできた。
「今から俺んちこれる?」
「え?」
「家デートに変更、チビ達は親と出かけてるから今うち誰もいないし鍵開けとくから」
俺の部屋分かるだろい?と言われて少しだけ戸惑ってしまう。
ブン太の部屋は何回か言ったことあるけどさすがに誰もいないって…いやでも緊張する。
「じゃあ決まり、待ってるから」
「え、ちょ!」
待ってという言葉も聞かず切られた電話に呆然としていること数分。
会いたい気持ちとちょっとの不安、決断は早かった。
幸いここからブン太の家までそう遠くなく一応インターホンを鳴らしてから反応がないことを確認すると遠慮がちにドアを開いた。
本当に鍵が開いていたのでもしこなかったらどうするつもりだったんだろうと考えても無駄なことを考えてきっとブン太には私の気持ちなんてお見通しなんだろうなと思ってお邪魔しますと声をかけて家にあがる。
「ブン太ー?」
「……」
部屋の主からの返事はない。
あれからまた寝てしまったのか、と起こさないように部屋のドアを閉めると寝ているブン太に近づいた。
こうしてみるとほんと、ブン太ってかわいい顔してるなあ…、テニスで見せる凛々しい顔と今のあどけない顔、どちらもブン太だと思うと少しだけおかしくてくすりと笑うとぱちっと開いた目と目があった。
「何笑ってんだ…よい!」
「きゃあ!」
世界が反転する。ブン太が私の上に跨がっているのだと気づいたのは数秒後で、かあっと熱くなる頬にやだ、どいてよと訴えても目の前の彼はいじらしく笑うだけで少しだけ私に体重をかける。それがまた私を恥ずかしくさせた。
「なまえ…ごめんな」
「え…?」
ためらいがちに触れた唇からもれる申し訳無さそうな声に目を丸くするとブン太は少しだけ眉を下げて、それからわたしの肩に顔を埋めた。
「今日楽しみにしてただろ」
「うん…」
でも…と続ける私にブン太は顔を上げた。
「結果的にブン太と一緒にいられるから、それはそれで結果オーライかな」
あはは、と笑うとちくりと首筋に小さな痛みが走る。
ブン太の息が首にかかってすこしくすぐったい。
「なまえ悪ぃ…今日手加減できないかも」
「…うん、いいよ」
こくりと頷くと余裕のなかったブン太は少しだけ微笑んで、それから噛みつくようなキスを何度も何度も繰り返した。
一瞬唇が離れる時に呟かれた名前に胸が熱くなる。
「…今日は離さないぜぃ」
ぺろりと一回、私の唇を舐めると這わされた舌と入り込んでくる手に私はゆっくりと目を閉じた。
欲望だけのキスをして
(それから私が解放されたのは3時間後の事)
お題 確かに恋だった