「ごめんね急に…こんな朝早くから」
「いーって、それよりなんかあったんだろ?」
勇人には叶わないなあって笑ってるけどちなつの目が赤いのを俺が見逃すはずがない。
だてに幼なじみやってないよ。
俺のクラスじゃ話しにくいだろうしまだHRまでは時間あるから少し歩こうと提案すると力のない返答がかえってきて俺の心をざわつかせた。
「勇人は知ってた…?」
「…何が?」
「水…谷がちよの事す…きって」
「……」
言いながら目を潤ませてごめんねって涙を拭う彼女に俺はなんて返せばいいんだろう。
水谷の態度はあきらかだった、でもちなつの態度も俺から見ればあきらかにわかりやすかった。
水谷なんかやめちゃえよって言えたらどれだけ楽だろう。
俺を見て、俺を選んでくれればそんな悲しい思いなんてさせないのに。
「知ってたよ」
俺は最低だ。彼女に現実をつきつけて、少しでも可能性を見いだそうとしてる。
止まらない涙をそっと人差し指で拭ってから少し躊躇ったけれどもう生温い関係は壊れ始めてるし、俺もそろそろ限界。
「俺じゃ駄目?」
「え…」
「もう傍観者でいたくないんだ」
見開かれた瞳から大粒の涙がまたほろりと流れる。
俺はまだ自分の気持ち隠すの上手い方だから分からなかっただろ、なんて笑ってみせるけどちなつは焦点が定まらない目で二三歩後ずさった。
「困らせるって分かってたけど阿部も動いたんじゃ黙ってられる自信なかったんだ」
「阿部…」
「今は俺のことだけ見てよ」
「!」
阿部や水谷のことなんて考えないで。
腕を伸ばしてぎゅ、と小さな体を抱きしめる。
驚きこそしたものの拒否されないことに安心する。
こんなたくさんのこと、いっぺんにきたら混乱するに決まってんのに言わずにはいられなかった。
この片思いはもう何年も俺の中で膨らんでた想いだから、昨日今日出てきた奴に取られたくなんかないって思うのは当たり前で。
「別に今すぐ返事が欲しいわけじゃないから」
「…」
しばらくしてゆっくりと腕を放すと少し落ち着いたちなつに語りかける。
「俺の気持ち知っておいてほしかったんだ」
「…わ、たし」
先を紡ごうとする唇に指を当てて今は何も言わないでほしいと言う。
反則かもしれない。けど少しだけ悪足掻きさせてよ。
「そろそろHR始まるし戻ろう」
「うん…」
「阿部も戻った方がいいぞ」
「え…」
顔をあげた彼女の瞳に映るのは複雑な顔をした阿部の姿だった。
もう一人の想い人
(あたしは色々なものを見落としていた)