「いってぇ・・・」


叩かれた頬に手を当てると熱くて、じんじんと鈍い痛みがまだ残っている。
これで良かったんだと思った。
水谷の背中ばかり追う竹本の視界に、一瞬でも俺は入れただろうか。
こんな形で泣かせて、嫌われたかもしれない。

でもな、俺も限界だったんだよ。

水谷の事しか頭にないのは一向に構わない、けどな、けど・・・頭の隅にでもいいから俺の居場所を作ってくれてもいいだろ。

言いかけた言葉を思い出してそのままイスに崩れ落ちてうつむく。
お前は知らないかもしれないけど、俺はお前が水谷なんかを好きになるずっと前からお前の事が好きだった。
入学式の時きらきらした顔して入部届けを出しにきた竹本と目が会ったときから気になって、同じクラスになって話して、気がつくと俺はお前の事で頭がいっぱいだったよ。

俺は素直じゃないから気持ちの伝え方なんて知らなくて、なんとなく友達のまま過ごしてるうちにお前は恋をした。
出てくる話題は水谷の事ばっかで・・・わかるか?自分の好きな奴が目の前で他の男の話をしてる辛さ。

思考がどんどん暗くなっていく中、教室のドアが音を立てて開いた。


「お、阿部何してんだ、居残りか?」
「花井・・・」
「ど、どうしたんだお前、眉間のしわがいつもの2倍くらいになってんぞ」

俺の顔を見て驚く花井にそんなひどい顔してたのかと眉間に手を当てる。

「別に、少し考え事してただけだけど、花井は?忘れ物?」
「おお、教科書忘ちまってさ」

自分の席の机の中を覗いてあったあったと教科書をカバンに入れる花井になんとなく、ただなんとなく声をかけた。

「なあ花井」
「ん?なんだ?」
「お前恋ってした事あるか」
「はあ?そりゃあ・・・まあ、誰だってあんだろ。どうしたんだお前?なんか変じゃないか?」
「竹本」
「あ?竹本?」
「好きなんだ俺、あいつの事」
「え、でも竹本って確か水谷の事・・・」
「さっきそれで泣かした」
「はあ!?何やってんだお前」
「俺にも分かんねーよ・・・ただイライラして、傷つけた」
「・・・・それ、お前最悪だぞ」

花井が額に手を当てる。

「さっき俺竹本の事見たんだけどな、顔までは見れなかったけど」


花井が次に放った一言で、俺は大変な過ちを犯した事に気づいた。

「悪い花井」
「ああ、渡り廊下にいた」

花井の声を背に、今度は俺が教室を飛び出した。



長い片想い

(水谷としのーかが一緒にいるとこ見てたぞ)



⌒⌒⌒
120805
おうh

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