「やっだそれはないでしょ!絶対こっちだって」
「いやいやウソだろ、絶対これだから」
「ちーがーうー!」
「すいませーん、これ下さい」
「きゃー!ちょっと何勝手にやってんのよー!」


レジで会計する準太の隣に急いで駆け寄ったけど、時既におそし。あーだこーださっきからもめてたのはこれ、このペアマグカップが原因で。ご丁寧に手厚く包まれたカップを見てあたしは眉を寄せた。



「んなこだわる事ないだろ、機嫌直せって」
「だったらあたしが選んだやつでも良かったじゃん」


帰路の途中、あたしの頭をぽんぽんと撫でながら歩く準太の大きな手を捕まえて、下からちょっとばかり睨んだら、一瞬きょとんとしてからぷっと噴き出す。

「まあ過ぎた事を悔やんでもしょーがないだろ」
「そりゃそーだけど…」
「プリン買ってやるからさ」

納得いかないとむくれるあたしの手を取って。な?とあの無邪気な笑顔を見せられたら、うんって、言うしかないじゃないか。


「でも準太があそこまでこだわるのって珍しいよね、このマグカップになんかあるの?」
「あー、うんまあ」
「何々?」
「……」


え、何それすっごく気になるんですけど。わざとらしく視線を反らす準太にズイズイ迫ってみたけど、帰ってからのお楽しみ、って焦らすなもう。
そんな事言われたら早く帰りたくなるのが当たり前で、あたしは絡めた準太の腕をぐいぐい引っ張るとアパートの階段を上った。


「そんな急がなくてもいーだろ、カップが逃げる訳じゃないんだから」
「だって早く聞きたいもん!」
「あーそーですか」


呆れる準太を余所にガチャガチャ鍵を開けて中に入ると、机の上にさっき買ってきたマグカップを二つ並べ、向かい側に準太を座らせた。

「それでそれで?」
「お前ってホント子供がそのまま大人になった感じだよな」

ぐたっとあぐらをかいて余計な事を言う準太に、再びあたしの眉間にはしわが寄る。
関係ないでしょ今それは!
メラメラ燃えるあたしに気づいてはいはい、と包装されたマグカップに手を延ばすと、準太は丁寧に包みを解いてブルーのカップを机の上に置いた。

「ちなみにコレは俺用だから」
「あたしのは?」
「これ」

コトン、と準太のカップの隣に寄り添うようにして置かれたのは、かわいらしいピンクのコップ。おぉ、何か夫婦みたい。

「それ、夫婦カップっつーんだって」
「え?」
「慎吾サンが言ってた」
「へえ…」

やっぱりそうなんだ、まじまじコップを眺めるあたし。プラスチックの表面にハートがちらほらしてて、すごく可愛いなぁ…って、ん?夫婦カップ?
思わず顔を上げたあたしの目には、気づくのおせーよ、と赤くなる準太の姿。

え、ウソ。これってもしかして、もしかしなくとも。


「とりあえずこのマグカップは第一歩って事で」



もうすぐやってくるその日まで

(寄り添うマグカップが眩しく見えた)



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120802
シャイなあんちくしょーの準太には、キューピッド慎吾サンが後押し