「あー喉渇いた」

パタパタと下敷きであおぎながらだらりと机に突っ伏する彼女に俺はため息を漏らす。
放課後、誰も居ない教室で日直の俺らは居残りで日誌を書いている。(といっても書いてるのは殆ど俺だけど)
彼女はやる気が全くないといった様子でなげやりに外を見ている。


「野球部練習してるねー」
「まあ大会近いからな」
「阿部出なくて良いの?」
「お前が日誌書くの手伝ってくれたらすぐにでも行くよ」
「あーむりむり」


あたし今熱中症だから、と窓を開けて涼しーなんて言うあたりどこも異常はないと思う。
ちらりと視線を彼女に移してから再び日誌に取り掛かると突然あ!と言う声と同時に俺の鞄から何かを取り出す彼女の姿が見えた。


「ちょ、何人の鞄勝手に漁ってんだよ」
「阿部ったらひどい!飲み物持ってるなら言ってよねー」


そう言うとキャップを回してペットボトルを口に近づけようとする彼女に俺は素早く取り返そうとしたが、一歩遅かった。
引ったくったペットボトルはすでに彼女が口を付けた後で、俺の顔は途端に真っ赤になる。


「お前…これ」


少し減っている中身は俺が飲んだ分と、今彼女が飲んだ分。
つまりは間接キスをしてしまった。
こいつは知らないだろうけどいつも彼女を見つめて、ずっと片思いし続けてきた俺にとってこれは大変な事で、赤くなる顔を抑えながら前ののーてんき女を睨むと、にやりと不敵に笑っていた。


「何笑ってんだよ」
「いや、たださ」


続きを促す俺に彼女はまたふふっと笑って一言。


「わざとやったんだとしたらどーする?」


楽しそうに笑う彼女の言葉に完全にスイッチが入った俺は、体を前に乗り出してそっと触れるだけのキスをした。



間接キスのつづき
(あたし実はずっと阿部の事好きだったの)
(…うそだろ…)



⌒⌒⌒
120730
てへぺろ!