「おばさーん、」
トントンとこぎみいい音が中から聞こえてくる中、あたしは元希のお母さんに渡すよう頼まれた佃煮を持って、ドアの前で叫んだ。
あたしと元希はいわゆる幼なじみとゆうやつで、あたしの家は元希の家から左に3件目にある。毎日お互い部活だからと起こしてあげたりしているけれど、いい加減自分で起きたらどうだろうとも思うけれど。
中からぱたぱたとスリッパの音が聞こえてきて、あたしはその思考を一旦中断した。
「いつもありがとねえ」
「いえ、」
それじゃああたし…と踵を返そうとした時、おばさんに呼び止められそういえば元希があなたに何か用があるとか言ってたわ、何て、一体なんだろう。
通い慣れた元希の部屋までツカツカ歩いていきノックすると、おーと気のない返事が返ってきてあたしはそのままドアを開けた。
「何ー用って」
「別に、」
特にねえよって言ってベットに横たわる元希に、あたしはハテナを浮かべる。そういえば最近の元希は変だ。意味もなく呼び出したり、一緒に帰ったり、(これは恒例化しつつあるけれど)前より二人でいる事が多くなった。
「元希さあ、」
あたしも特にする事がないので元希の横たわるベットに座ると、膝を抱えながらちらり、と元希に視線を送る。
「あ?」
「もしかしなくともあたしの事好きでしょ」
別に慢心してる訳ではないけれど、何となく、女の勘ってゆーか、今まで思っていた事をゆってみる。元希は最初はじっと黙ったまま、しかし次の瞬間がばりと起き上がるとあたしの顔に後数センチで届かない所まできて動きを止めた。あたしはその一瞬の動作にどうする事もできなくて、ただ、高まる胸をどうか元希に聞こえないように祈った。
「どうして、」
「え?」
「ンで分かったんだよ」
うそ、マジで好きだったんだ、うわー、何か恥ずかしいっ。赤くなる元希につられて、あたしも赤くなって俯いていると、急にグイと引っ張られ、ドサリとした音と共に世界が反転し、あたしの視界には天井と元希の顔が二つだけ。
「も、元希?」
「もー無理、限界」
今までずっと我慢してきたんだと、意味わかんない事を言い出して、熱っぽくあたしを見つめるその瞳に、不覚にもドキリ、としてしまった。
ビースト
(あたしも実は好きだったよ)
⌒⌒⌒
120730