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後日、俺達全校生徒は文化祭の開会式のため体育館に集まっていた。

軽音部による盛り上がりから各クラスの出し物紹介。最後には生徒会長の一言で文化祭の幕があがった。

「それでは、文化祭を開会します。皆さん怪我には気をつけて楽しんで下さい」

おおおおとあちこちから歓声の声があがる。元々文化祭に興味がない俺は欠伸を噛み殺しながら生徒が退散していく様を見ていた。もちろん隣では楽しそうにはしゃいでいる眞がいたが。

「ねぇねぇ、橙真どうする? どこからまわる?」

目を輝かせながらそう聞いてくる眞に俺は、ねむそうな声でぶっきらぼうに応えた。

「どこでも」

すこし残念そうにした眞だったが何時もの事と、すぐに立ち直りまた話始めた。

「俺はね俺はね、ここ! ここ行きたいんだ!」

眞がそういって見せてきたのは文化祭の出し物が簡易的に書かれているパンフレットだった。眞の指が指し示した先にあるのは『僕達の青春は永遠に……』と言う名の学生達が撮ったビデオドラマだった。

「これがみたいのか?」

「そうこれ。この『僕達の青春は永遠に……』ってね、実はこの青春って男どうしの恋愛ものなんだって。みんな珍しいから興味本位で見に行くんだって。だから俺も面白そうだしみたいなって。……橙真はそういうのやっぱりやだ?」

突然の内容すぎて絶句してると俺がみたくないと思ったらしく心配そうに眞が俺の顔を覗いてきた。

「いや、別に偏見とかないし見てもいいけど。ただ、びっくりしたんだ。こういう難しい題材を使ってドラマを作る学生がいるとは思わなかったから。しかも文化祭で……」

ただ単に冗談半分で作っただけかもしれないけど。

「あぁーそれね。なんかね、面白半分冗談半分で作ったっぽい」

やっぱりな。

「ああ、なんかそんな気がしてた。ところでそれ、何時からなんだ? 上映時間」

「うんとねー最初の上映が11:00~11:30で二回目の上映が12:00~12:30、三回目が1:00~1:30んで、最後の上映が2:00~2:30」

つまり
@11:00~11:30
A12:00~12:30
B1:00~1:30
C2:00~2:30
ってことらしいな。

「眞、おまえは何回目の上映に行きたいんだ?」

「俺はいつでもいいよ。橙真もいつでもいいんだったら最後の上映に行きたいかな。食べ物食いっぱぐれると嫌だし」

基本自分でなにかを決めることが得意じゃない俺に、眞はへらりと笑って先に決めてくれる。俺に気を使ってくれてんだろうな。俺が気にしないようにってそんなことまでいって。

「じゃあそれで」

結局俺はいつもこいつに甘えてる……。

「じゃあとりあえず食い物調達しに行こうか。なくなるのはやいし」

「ああ」


ーーその後、食べ物をメインに、行きたいところをまわっていると眞がみたいと言っていたビデオドラマの上映時間になった。俺達二人は少し早めにそのクラスに向かった。

中に入るとどこにでもあるような普通の教室内に椅子が並べられており、目の前に大きなテレビが設置してあった。中にはまばらに人がいて最後の上映だと言うのに半分くらい席はうまっていた。俺達は後ろのほうの右端に腰をおろし、取り留めもない話をどちらともなく話し始める。しばらくどうでも良い雑談を続けていたが、やがて眞との会話がきれると周りを見渡す。そこにはさっきまでいなかった生徒達が多くいてみんなこういう題材のものでも見るんだなと少し驚いた。人が増えるとにぎやかになる。俺はさっきまでの映画が始まる前の静かな喧騒が好きだったから少し残念だ。

「それではこれから僕達が作った自作ビデオドラマ『僕達の青春は永遠に……』を上映いたします。これは一人の少年がある日出会った少年に恋をしてしまうという内容になっています。少年が同性愛に対してどう悩んでどう葛藤してどんな結論をだすのかそんなところをこのドラマで一緒に考えて頂ければ幸いです。それでは、どうぞ」

そんな前置きとともに一人の少年が映し出される。廊下を歩いていく彼は水に濡れていた。おまけに髪の毛はぼさぼさでかけている眼鏡も汚れている。その様子から彼が先程までいじめにあっていたのだろうことは容易に想像できた。

『貴方は悔しくはないのですか?』

しばらく歩いていた少年の耳にそんな声がかかる。どうやら彼は俯いて歩くうちに学校内の中庭に出てきていたらしい。

『貴方は許せるのですか?』

もう一度、同じ声がかかりカメラの視点が切り替わった。そこには中庭でベンチに腰掛ける少年の姿があった。彼の背後から存在を主張するその眩い光によってか、それとも彼自身の独特の雰囲気のおかげかなんとなく彼の存在は神秘的なものに見えた。画面越しでもわかるその儚げな存在。こんな生徒、この学校にいたかな。

『君は……』

主役の彼が儚げな少年に声をかける。声をかけられた瞬間儚げな少年はほんの少し、笑った。それは笑ったと言っていいのかわからないような微妙な変化だったが俺にはわかった。

『僕は罪の子。パンドラの箱』

主役の彼はその言葉をきいてよくわからないといった表情を見せる。

『僕は……』

少年がなにかを喋ってはいたが、聞こえずにそれは空気中に散開した。

そこからカメラは主役を写し、主役が俯けていた顔を再び少年に向けると共にカメラもその先を追う。しかしそこには先程までいた少年の姿はなかった。

(5/5)

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