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雫side
あれから泣き止むまで時間がかかってしまった。けど、その間ずっと委員長さんは待ってくれて、ずっと僕の頭を撫でてくれていた。
それから、しばらくしてから泣きやんだ僕はお礼を告げて委員長さんと一緒に風紀室に向かう。
「ついたぞ、水下」
「は、はい」
とうとうついてしまった。風紀室が嫌なわけではないけど、みんながみんな委員長さんみたいな思考の持ち主とは限らない。もし、風紀の人達が周りの人達みたいな思考の持ち主だったら? もし、生徒会役員の人達みたいだったら? 嫌でもそんな思考が頭の中をぐるぐるする。
「大丈夫か?」
そんな僕の思考が表情に出ていたのか、委員長さんは僕の顔を見ながら心配そうに声をかけてくれた。
「だ、大丈夫です......。ちょっと緊張しちゃって」
「大丈夫。風紀の奴等は生徒会の奴等とは違う。それに、俺がずっとそばにいるから大丈夫だ」
そう言われた途端に、頭の中をぐるぐる回っていた不安が一気になくなった。
なんだろう。委員長さんにそう言われると何故だか大丈夫な気がしてくる。この人がお兄ちゃんみたいな存在だからかな? いや、多分この人だからなのかもしれない。
「はいっ!! 有難うございます」
「それじゃあはいるぞ」
「はい」
僕が返事をすると同時に委員長さんが扉を開けてくれた。
「おっ、修也やっと連れてきたの? その子が噂の子? どれどれ......」
「駄目だよ、椋。ごめんね。君が噂の水下 雫君かな? 君のことは修也からよく聞いてるよ。風紀室へようこそ」
開けて直ぐに話しかけてきたのは少しちゃらそうな人だった。ちょっとびっくりしたけど、悪意はなさそうで安心した。その後来た人も悪意なく挨拶してくれて、久しぶりに色んな人と普通に関われて嬉しかった。
「あ、そうです。僕が水下 雫です。よ、よろしくお願いします」
「うん。聞いてたとおり礼儀正しい子だね。マリ......大河内君みたいな子が来たらどうしようかと思ったよ。俺の名前は篠田 翼です。これからよろしくね」
「あー。翼だけ挨拶とかせこっ!! 俺は牧瀬 椋でーす。これからよろしくー」
篠田さんは風紀副委員長をしている人で、牧瀬さんは風紀のトップ3の立ち位置にいる人らしい。
にしても、篠田さんは一癖ある人っぽい。さっきも大河内のことマリモっていいかけてたし。
でも、二人ともいい人だと思う。だって、こんな僕に二人は関係ないと言わんばかりに普通に接してくれるから。今の僕に話しかけることがどんなことを意味するのかわかってるはずなのに......。
「挨拶は済んだか? なら水下こっちにこい」
委員長さんが僕のことを呼んでる。行かなくちゃ。
「あ、行ってきますね」
二人にことわりをいれてその場から離れる。
委員長さんは風紀室の奥の方にある椅子に座って書類を広げてる。
「あ、あの」
「ああ。これからのことなんだが……。とりあえずそこのソファにでも座れ。飲み物を入れてくる」
委員長さんが指さした方には豪華なソファがあって僕が座っていいのか迷ったけど委員長さんは僕が座らないかぎり動く気がないみたい。と、とりあえず座らなきゃ。
「うわ、すごい。ふかふかだ」
僕の予想以上にふわふわで思わずしまりのない顔になってしまった。けど、こんなソファ初めて座った。すごいなぁ。いいなぁ。ふわふわだなぁ。
「水下。紅茶でよかったか?」
そういって僕の座っているソファの目の前の机に紅茶を置いてくれた。
「はい! ありがとうございます」
久しぶりに感じる優しさに思わず言葉に力が入ってしまった。けど、委員長さんはそんなこと気にしてないようで微笑んでくれた。
こんな顔も出来るんだ。それになんだろう。この顔、なんだか懐かしいような……。
初めてみる委員長さんの笑顔に僕は驚いた。その驚きを僕は悟られないように静かに紅茶に口をつけた。
「あ、美味しい」
「そうか」
委員長さんは僕の頭を撫でてから向かいのソファに座った。
「それで、本題だが。水下には風紀委員に入ってもらおうと思う」
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