4 side修也
side 修也
あそこにいるのが水下 雫か。随分と痩せたな......。
俺はこの学園をぶっ壊して悠々と遊んでいるマリモの親友、水下雫を風紀室に連れていくために仕事をサボってなにもしない無能共御一行に近付いて行った。
「おい。大河内。そこの水下雫を借りていきたい」
外見は普通。いや、この学園にいるから埋もれてしまっているだけで学外だったらかっこいいではないにしても可愛い系でモテていただろう。しかし、ここはあの学園。まわりが平凡平凡と呼ぶのもわかる。けど、俺は知っている。水下雫が心優しい存在であることを。
「あぁ、修也じゃん!! いつも名前で呼べって言ってるだろ!!」
それに比べてなんだこいつは。全く礼儀がなっていない。
「もう一度言う。そこにいる水下雫を借りていきたいんだが」
「なんでだよ。今から雫は俺たちと遊ぶんだ。な!!」
顔見て気付け。嫌そうな顔してるじゃないか。なんでこうもこいつは自分勝手なんだ。
「こっちは仕事なんだ。はやくこっちに渡せ」
「やだ!」
幼稚園児を相手にしてる気分だ。これじゃ、ただ自分の思い通りに行かないから駄々を捏ねてるだけじゃないか。
「あの、大河内君。僕、行くよ。遊びは今度にしよっ?」
「本人がそう言ってるんだからはやく離してやれ」
よく見ると大河内が力加減なく握っている水下の手がアザになっている。はやく離してやれ。あの細い手首が今にも折れそうだ。
「えぇー。じゃあ、雫。明日一緒に飯食った後みんなと遊ぼうぜ!!」
「う、うん。わかった」
「よし、水下雫。いくぞ」
やっと、助けることが出来た。俺がおまえに救われたように俺がおまえを救ってやる。もう今度は離さない。
水下雫をあそこから救い出すことには成功したが、どうやら本人は俺を警戒しているらしい。彼の身体が緊張で縮こまっている。
きっと、彼は知らないんだろうな。いや、覚えていないんだろう。俺のことなど。
「そんなに縮こまるな。おまえになにもしないから安心しろ」
だからできるだけゆっくり、穏やかに。彼が安心できるように。
「え? あの、あなたは誰ですか?」
やっぱり。だが、そんなことで落ち込んでなどいられない。彼が覚えていないのなら今から知ってもらえばいい。
あの時の事を彼に思い出してもらうのではなくこれからまた、新しく。
「え? ん、あぁ。知らないのか。失礼。まさか俺を知らない生徒がいるとは思わなかったからな。少しうぬぼれてたみたいだ。俺の名前は三上 修也」
俺が名乗った後、彼は驚いたような顔をした。だが、すぐにみるみるうちに顔が青くなっていく。
「あ、あの、あなたはその、もしかしなくても......」
「ん? あぁ、ここの風紀委員長をやらせてもらってる」
きっと彼は勘違いをしているんだろう。自分がマリモの仲間だと思われて誰にも信じてもらえないんだと。だから自分は風紀室に連れていかれるんだと。
「あ、あの、僕、なにか悪いことしちゃいましたっけ?」
「いや、していない。俺が君を風紀室に連れて行こうとしてるのは君を守るためだ」
「まもる......ため...?」
「ああ。今まで大河内のせいで風紀が大変だったことで、君への配慮まで手がまわらなかったのが現状だった。けど、このままではまずいと思ってな。遅くなってすまなかった。辛い思いをさせた」
そう言った途端、彼の目から涙が流れてきた。
「お、おい。大丈夫か? そうだよな。遅すぎだよな。本当にすまなかった」
彼は泣きながらも首を横に振ってくれた。
「え?」
彼の伝えようとする意志が伝わってきて俺はしっかりと彼の目を見た。
「違うんです。......僕、嬉しいんです。僕の...ことなんか...わかってくれる人なんていないって.....ずっと...思ってたから嬉しくて」
泣きながらしっかりとした音で必死に話す彼を、俺は綺麗だと思った。
作り物のような綺麗ではない。本物。
俺は本心から思った。あぁ、なんて彼の名前のとおり綺麗な雫なんだろう、と......。
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