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???side
視線。どこを見ても同じ視線。冷やかな……視線。いつだって同じ視線。
でも、俺にはその視線が不思議と恐くはなかった。いや、不思議とでもないか。……俺には、感情が欠落しているのだから。
いや、欠落というより人並みにはないだけと言うのが正解か。つまり、希薄なだけ。でも、その言葉一つでうまくまとまるほど簡単な問題じゃない。
「ちっ。いつまでいるんだよ。いつもいつも、邪魔なんだよ。何度いったらわかるんだ。俺様の前から失せろっていってんだろうが !!」
さんざん俺を罵ってきたあいつ。学園の二大勢力のひとつ。生徒会の頂点に立つ男。
それに対する俺。非力な一般生徒。
「す、すいませんでした……」
いや、ひとつ違うな。俺は……
「うるせぇ! 謝るぐらいなら最初から近づいてんじゃねぇよ!!」
うるせぇって、どんだけ横暴なんだよ……。
「わ、わかりました。す、すいません」
「ふん! 今後一切俺様と和泉に近付くんじゃねえぞ」
そんな、三下が捨て台詞で吐くような言葉を残して去っていく“会長”。
今ごろ俺かっこいいとか思ってんだろうな。
*****
たく、毎日毎日めんどくせぇ。それもこれもあいつが来たせいだ。
なんか面白いことないかな。
あの意味のわからない口論の後、自室に戻ってきた俺は早々にベットに潜り込んだ。
――ツルルルツルルル――
意識が沈んできた頃、無機質な機械音が俺の眠気を払い、耳に入り込んでくる。
……誰だよ。
手探りで机の上の携帯電話を探す。
携帯電話を手にした俺は、表示されているディスプレイを視認した瞬間自分用の個室から出た。そして、二人部屋のリビングのソファーに座りなおす。
二人部屋といっても、今は相部屋の奴が何処かに遊びに行っていて不在だが。
「はい。もしもし…」
『お、でたな。猫ちゃん』
ほんと、こいつの声は耳に悪い。
学園の小さい奴らが聞いたら「妊娠するー」とかいってはしゃぎだしそうな声だ。
「猫ちゃんはやめろ。せめて、猫とか呼び捨てにしてくれ」
『えぇー。いいじゃんいいじゃん。"猫"って呼ぶよりも、ちゃんつけて猫ちゃんって読んだほうが可愛いじゃん!』
なにがじゃんだ……。
「ちゃん付けは可愛い子だったらいいけど、俺みたいな奴にちゃん付けは似合わないだろ。……で? 用は?」
『えぇー。おまえまだ自分の可愛さに気付いてないのか……。可愛いっていうより綺麗? いや、その間か?』
俺が聞いてんのにこいつは話をそらしてくる。自分からかけてきたくせに。
俺だってこんな奴の電話なんて出たくなかった。だってこいつの持ってくる話は大抵ろくなことがない。
「千羽 翔」
でも断れないのは……
『あぁ、はいはい。わっかりましたぁ。本題入ります。………猫、おまえ今学園でいじめられてるな?』
いじめ……大抵の人がそんなことを直球で言われれば助けを求めるか否定をし、迷惑がかからないようにするだろう。
「あぁ、それがどうした」
でも、俺は普通に答える。俺には求める救いも迷惑をかける相手もいない。
それに俺は、いじめに対する憎しみや苦しみがない。
だって俺は、感情が欠落しているのだから……。
『なぁ、猫。いや、琥珀……復讐しませんか?』
俺がこいつの話を聞くのを断れない理由。それはきっと、俺が愉快犯だからであり、こいつの話はろくなことはないが面白いものを持ってくるからだ。
ーーあぁ、始まりの前奏曲は電話の着信音のように軽快に鳴り響くーー
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