プロローグ
ある一室。悪趣味な装飾品が並ぶ薄暗い部屋の中。そこでは聖歌が流れていた。
そして、男が一人、この薄暗い部屋には不釣り合いな派手な男がいた。
ほんの少し野生の印象を見たものに感じさせる整端な顔。そして、緑髪に赤のメッシュが印象的な男だった。
「ふふ。動いてもらいますよ猫。いや、琥珀……」
男の発した官能的な声。わざと出している印象も受けない違和感のない音。男の声を聞いただけで女性が落ちるような甘美な色っぽい声だった。
そんな男がおもむろに自分のポケットに手を伸ばす。
そして次の瞬間取り出したものは……携帯電話。
男は携帯電話の画面を見つめ溜め息をつく。そして、溜め息を吐き終わった途端、覚悟をきめたかのように画面をロックしているパスコードをうち始める。
打ち込み終わりホーム画面が表れた途端、なんの迷いもなく電話帳を開き一人の人物を探す。
「み〜つけた」
そして、戸惑いなくその相手に電話をかける。やがて聞こえてくるであろう鼓膜に直接かたりかけるかのようなくすぐるような美声をまだかまだかと待ちわびていた。
――ツルルルツルルル――
無機質な機械音が耳の向こう側で鳴り響く。
間違いなく今電話をかけられている相手は不幸である。なぜなら、この男の顔は先程までの顔とは違い歓喜に満ちていたから……この男――千羽 翔――の考えることは大抵ろくなことがない。
そして、通話画面に表示されている相手の名前は……………猫。
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