ずっとずっと一緒だったはずなのに、わたしたちはいつからか共に過ごす時間がなくなっていた。所謂幼なじみといった間柄で、時間があればいつだって一緒に過ごしていた。思えば小学校に上がった頃から彼は化け物だと囁かれるようになって、それでもわたしは彼のことをそんな風に思ったことなんてなかった。いくら彼が人に怖がられようと、わたしは全く怖くなかったし、むしろそんな彼を支えてあげたいと、好きだと思っていた。中学生くらいまでは登下校を共にしたり、屋上でお昼ご飯を食べたりしていた。ところが高校生になってから、彼は少しずつわたしを遠ざけるようになって、三年生になったあたりからはぱったりと交流が途絶えてしまった。新羅曰く、折原臨也の存在が関与しているのではないか、と。そして彼との交流が途絶えたまま、わたしたちは高校を卒業した。


彼の噂はたまに耳にすることがある。今は目黒に住んでいるから、池袋のことはあまり詳しくは知らないけど、たまに来るセルティからのメールで、彼の現状を垣間見ることができた。



《今度池袋に来たらどうだ?》



つい先日セルティ送られてきた一通のメール。もう何年も会っていない彼に会うことに抵抗があって、池袋には近づかないようにしていた。でも、今でもわたしの心の奥底には、彼が、静雄がいた。怖い、でも会いたい。そんな複雑な心境で、わたしは電車に揺られていた。


改札を出て西口へと向かう。高校生の頃を身体はまだ覚えていて、なんだか少し照れくさかった。日差しが差し込んで視界が眩む。足を街へ踏み出した瞬間、そこには眩しい金色があった。


「し、静雄…」

「久しぶりだな」

「どうしてここに?」

「あー、なんだ、立ち話もあれだし、あそこの公園行かねえか?」

「え、あ、うん」



公園までの道のりは終始無言。随分と変わってしまった街並みを眺めながら、時たま静雄の背中をちらりと盗み見た。高校生のときよりまた大きくなった背中に、鼻の奥がツンとしたのは気づかなかったことにした。



「ん、コーヒー」

「ありがとう」

「あー、なんか、ほんと、久しぶりだよな」

「そうだね。暫く来ないうちに、池袋も変わったね」

「お前は、変わってないな」

「そう? それはちょっと複雑だけど…」

「…俺がセルティに頼んだんだ。お前に池袋に来るように言ってくれって。」

「へ?」

「それでお前が今日来るって聞いて、あそこで待ってた」

「そ、そうだったんだ…。でも、よくわかったね? わたしが西口から出るって…。」

「なんとなくだ」

「そ、そう」



単純そうで、でも全然読めない静雄の心境に、わたしは戸惑ってばかり。いつだって静雄は、言葉を飲み込んでばかりで吐き出してはくれない。だからわたしも、無理に詮索出来なくて、こうやっていつも、すれ違ってばかり。でも今日は、今日こそは、ちゃんと向き合うって決めたの。





「ねぇ、静雄」

「あ?」

「何で静雄はセルティに、わたしに池袋に来るように言ってくれって、頼んだの?」

「それは、」

「ちゃんと言ってくれないと、わからないんだから」

「…お前に、会いたかったんだ。昔の俺は、この力を制御出来なくて、お前のことも傷つけちまいそうで、怖かった。だからなるべくお前に関わらないようにしてきた。」

「うん…」

「でもずっと思ってた。いつかこの力が、俺の言うことを聞いてくれるようになったら、お前に伝えようって」

「うん」

「お前が、好きだ。ガキのときから、ずっと」

「わたしも、わたしも静雄のこと、小さいときから好きだったよ。避けられても、ずっと会ってなくても、それでも今も静雄のこと、大好きだよ」

「待たせて悪かった」

「ほんと、待ちくたびれてたんだからね」

「ああ、好きだ、好きだ」





弱々しく、そっと抱き締めてくれる彼の両腕に、わたしの未来を託して





君を想う何百かの夜

これからはあなたとともに








橋の上を歩く少女と川を泳ぐ少年と様提出
2012.2.28
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