「あつい…」
船の上というのは、透き通る空と海の青と、爽やかな海風に包まれて、非常に心地いいものだと、そういうイメージを持たれがちだが、やはり夏は夏だ。とても暑い。船の中の部屋にはクーラーがあるが、ただいま下働きの者たちが絶賛大掃除中であるため、外に追い出されてしまったわけである。
「あついあついあつい。暑いよしんすけー」
「そうだなァ」
「あいすたべたい…」
「そうだなァ」
さっきからそうだなあしか言っていない晋助に凭れかかりながら、暑い暑いと繰り返す。暑いなら離れろ、とは言わない晋助に頬が緩む。
「ねーしんー」
「なんだ」
「あついー」
「そうだなァ」
「ねー、晋助ー」
「なんだ」
「すきー」
「…あァ」
真っ青な空を仰ぎながら、晋助の左手をきゅっと握る。過激派攘夷志士だとかテロリストだとか、わたしにはそんなことどうでもいいし、晋助と一緒に居られるなら、どんな獣道だって着いて行く。そのくらい、いやそれ以上の覚悟はとうの昔に出来ている。
「ね、晋助。お誕生日おめでとう」
「あァ」
「晋助がいらないって思うまで、一番近くにわたしを置いてね」
「ハッ、死んでも離してやんねェよ」
「うんっ」
何年一緒に居ても飽きることなどない。好きな気持ちは増すばかり。たまに泣きたくなるくらい、好きだなって思う。晋助も同じだったら、どんなに嬉しいだろう。晋助が見つめる先は幸福な未来なんかじゃないけれど、晋助と一緒なら、地獄だって天国だ。
「おい、名前」
「ん?」
「愛してる」
わたしの頬に手を這わせてゆっくりと落ちてくる唇に、わたしもそっと瞼を閉じる。柔らかく触れ合う唇が、沸き上がる感情とともに熱を帯びる。今はもう何もいらないから、抱き締める腕をもう少しだけ緩めないでいて。
甘い熱だけ残して 溢れ出す愛はその後に語ろう
来年のこの日も、あなたの隣に居られますように
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