どんよりと暗く濁った空。今日も戦争は終わらない。怪我を負って帰ってきた仲間たちの手当をしながら、先の見えない畦道に希望は薄れていくばかり。先生、先生、何度呼んでも先生は、応えてはくれない。もうこの世には居ない人、なのである。どう見積もっても負け戦。過去に捕らわれ、後ろばかり振り返っているわたしたちに、最初から勝機などないのである。
銀時の怪我の処置をしながら、横目でチラリと晋助を見やる。帰ってきてから目もあわせないし口も開かない。何があったかはわからないが、こういうときはそっとしておくのが一番だろう。
夜が明け、早朝。朝食の支度をするために女たちは動き出す。夏といえども肌寒いこの時間、普段ならぐっすりと眠っている筈の晋助が、わたしの腕を引いた。
「晋助?」
「来い」
黙ったままわたしの腕を引き歩く晋助。昨日から様子がおかしいのには気づいていたが、朝が苦手な晋助がこんな時間に起きているとは、一体何事なのか。近くの河原まで、終始無言でやってきた。歩みを止めてもなお、わたしの腕を放さない。
「これからこの戦、今よりさらに激しい戦いになる。だから、今屋敷に居る女全員連れて、ここから離れろ」
振り返った晋助は、眉根を寄せてそう言った。
「なんで、」
「もうあちらさんにはこの場所が割れてるらしい。お前等が標的になるのは時間の問題だ」
「でも、わたしは…!」
「頼む。お前には、傷一つつけたくねェんだ」
「でも、でも…!」
もうこれ以上なにも言わせない、とでも言うように、わたしの頭を胸板に押しつける。
「絶対迎えに行く、だから、」
ぎゅっと抱きしめる腕を強めて、声を絞り出すように、感情を押さえ込むように言う晋助に、わたしは何も言えなくて、溢れる涙が止まらなかった。
朝日が完全に姿を現して、わたしたちを照らす。わたしたちの拭えない悲しみや苦しみと裏腹に、また今日が、始まった。
息も止まるくらいに 熱いキスで約束して、繋ぎとめて
|