夏休みにもなってわたしが朝から学校に来ているワケ。それは補習だ。先日行われた期末考査で1つ欠点をとってしまった。科目は数V。理数系が苦手なわたしが数Vなんかわかるはずがない。それでも数Cはなんとか欠点を免れた。たがしかし人生そんなに上手く行くわけではない。数V、得点は28点。ケチにも程がある。後2点くらいおまけでくれたっていいだろう。痔になれ。なってしまえ。




午前中にみっちり数学を叩き込まれ、頭がくらくらする。ただでさえ昨日から今朝にかけての行為で体力を消耗しているというのに。全てアイツのせいだ。涼しい保健室で煙草の煙をくゆらせているであろうエロ保健医が恨めしい。


とかいいながら、律儀に保健室へ足を向けるわたしも、そろそろ末期だと思うが。




ガラガラ、と保健室の戸を引くと、中に籠もっていた冷気と煙草の煙が一気に放出される。




「名前。補習は終わったのか」

「うん。補習明日で終わりだって」

「そうか」

「高杉センセ。学校内は全域禁煙になったハズですよ」

「あァ? バレなきゃいんだよ、バレなきゃ」

「はぁ…」




この何様俺様高杉様が…とは口にせず、心の中で毒づくあたり、わたしは彼の恋人として素晴らしいと思う。




「補習終わったんなら帰るか」

「お仕事は」

「もうとっくに終わらせた」

「そう。じゃあいつものところで待ってるね」


先ほどわたしは彼の恋人だと言ったが、わたしは生徒、彼は教師、つまり絶対にこの関係がバレてはいけないのだ。だからいつもわたしが先に学校を出て、近くの公園まで行く。そして高杉先生が車でその公園までやってきて合流するのである。


「いや、いい」

「は?」

「行くぞ」

「は、いや、ちょ、」

「夏休みだし大丈夫だろォよ」

「いや、ダメだって!」

「それに、」



ニヤリ、わたしを振り返って口角を上げる高杉先生に、わたしは嫌な予感しかしない。こういう笑い方をするときは決まって、何か企んでいるときだ。



「この前お前に告白してた野球部のヤツに、お前が誰のモンか教えてやんねェとなァ」

「な、んで、知って、」

「なァ、名前」

「な、何、」

「昼飯、食って帰るか」

「バカ! わたし制服!!」

「冗談だ。行くぞ」




ちょっと待ってよ、と高杉先生の腕を掴んだ。めんどくさそうに振り返った彼を一発殴ってやりたい気持ちに駆られたがなんとか抑える。




「お前が心配する必要はこれっぽっちもねェ。俺はこの関係がバレようがどうなろうが、お前を手放すつもりは毛頭ないんだからなァ」




そう言ってわたしの腰を抱き寄せる彼の手を、わたしが振り払うことなんて、出来るわけがないんだ。



反論さえ呑み込んで
噛みつくようなキスにただただ溺れる

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