ジリジリと皮膚を焦がしていく太陽。空は真っ青で、空気はカラリと乾燥し、今年一番の夏日である。夏休みに入っても校舎にはちらほらと人の影がある。補習授業や部活動に勤しむ生徒であろう。グランドでは野球部が声を張り上げ球を追いかけている。わたしも例外でなく部活動の為に夏休みまでも学校に来ているわけだが、生憎文化部のため、クーラーの効いた美術室でのびのびとスケッチブックに向かっている。
ひとしきり活動を終え、部室を出る。外は蒸し蒸しとしており、冷えた身が一気に熱を持ち始める。職員室に寄って帰ろう、そう思い立って再び校舎に戻ろうとしたとき、見慣れた後ろ姿が目に入った。
「高杉くん!」
「ん、ああ」
「夏休みなのにどうしたの?」
「出席日数足りねェから補習出ろって銀八がうるせえんだよ」
「そうなんだ。大変だね」
「お前は」
「わたしは部活。美術部なの」
「へえ」
「今日はホント暑いねー。溶けちゃいそう」
「なァ、部活、もう終わったのか」
「え、あ、うん! 銀ちゃんに読書感想文見てもらおうと思って、職員室に行こうと思ってたの」
「銀八ならもう帰ったぜ」
「えっ、そうなの? うーん、ならまた明日だ」
「なァ」
「ん?」
「これから暇か」
「うん、特に何も予定はないよ」
「ならちょっと付き合え」
スタスタと進んでいく彼に小走りでついて行く。駐輪場で高杉くんのものらしいカーマインのママチャリの鍵を開けて、後ろに乗れと催促される。
「ねぇ、どこにいくの?」
「海」
「え、海!? ここからじゃちょっと遠くない?」
「夕方には着くだろ」
シャカシャカと小気味いい音を立てながら回るペダル。刺すような日差しとは裏腹に、心地いい風がわたしたちの身体を包み込む。高杉くんの細い腰ありのワイシャツをきゅっと握って、街の喧騒に耳をそばたてる。高杉くんの背中大きいな、とか、たまに見える横顔がかっこいいな、とか、なんだか恥ずかしいことばかり頭に浮かんできて、顔が熱くなる。赤くなっているであろう顔を隠すために、高杉くんの背中に額を預けてみた。
「名前」
「…ん?」
名前を呼ばれたと同時にブレーキをかけられ、ふと顔を上げると、彼は前を向いたまま、ワイシャツを握るわたしの左手を掴んだ。
どうしたの?、わたしは確かにそう聞こうとした。しかし、その言葉を言い終わる前に、腕を引かれ、振り返った彼の唇が、わたしの唇に重なった。
「好きだ。名前が、好きだ」
「た、たか、」
「海に着いてから言うつもりだったんだ。でもお前が煽るから」
「あ、煽ってなんか…!」
「お前は」
「へ?」
「お前は俺のこと、どう思ってんの」
「わ、わたしは、」
暮れ始めている太陽の光に反射して、綺麗な紫の髪がオレンジに染まるように、耳がほんのり赤くなっているのは何故だろう。そんな野暮なこと、聞かなくてもわかるけれど、その原因がわたしであるなら、これ以上の幸福はないんじゃないだろうか。
「わたしも、すき」
彼の手のひらがわたしの後頭部をそっと撫でて、もう一度キスをした。海はもう、目の前だ。
恋の味を教えよう それは甘くてほんのりしょっぱい |