気づいたらもう随分と日が長くなった。ついこの間までは、部活が終われば外は真っ暗だったのに、今はまだ薄暗い程度。今日の全体練習を終え、片付けや備品チェックをこなし、真太郎のシュート練習に付き合う。



「ねー、しんたろー」

「なんだ」

「明日、午前練でしょ? 終わったらどっか行かない?」

「構わないのだよ」

「ホント? じゃあ折角だしいつも行かないようなところに行こうね」

「ああ」



2人しか居ない体育館。日が暮れて大分涼しくなったそこは、2人になった瞬間、やけに広く感じられる。何年も一緒にいるけど、やっぱりこの日はいつもよりぎこちなくなってしまう。



「名前」

「んー?」

「似合っているのだよ」

「え、あっ」



真太郎の今日のラッキーアイテム、花柄のシュシュ。朝電話がかかって持ってきてくれと頼まれたものの、彼がこれをどう使うのか、わたしと高尾くんの興味の的だった。学校に着いて朝練の準備をしていたら、突然彼は片手に櫛を持ってわたしの髪を高い位置で結い、そこにその花柄のシュシュを飾った。これにはわたしも高尾くんも驚きを隠せなかった。いつもラッキーアイテムは肌身離さず自分で所持するのになんでわたしに、と聞いたけど、その答えははぐらかされた。



「ありが、とう」

「真っ赤なのだよ」

「うるさいっ」



テーピングをしていない左手の指先でわたしのポニーテールに触れる。そっと左耳をなぞるその指の軌跡が熱くなるのを感じながら彼を見上げた。



「そろそろ帰るか」

「うん、そうだね」

「名前」

「ん?」

「今日は少し、遠回りして帰らないか」

「うん!」



何でだろう。ずっと、誰よりも近くで彼を見てきたのに、慣れない。彼に触れられると身体が熱くなって、彼に笑いかけられると、胸が苦しくなる。ああ、わたしは真太郎が好きなんだなあ、とつくづく思う。明日、彼はまたひとつ大人になって、わたしはまた彼に惹かれていくんだ。なんて狡い人なんだろう。



「ね、真太郎。すきだよ」

「ああ」

「だからね、一番に言わせて欲しいの。フライングだけど、真太郎、誕生日おめでとう。これからも側に居させてね」

「当たり前、なのだよ」




前夜。貴方に触れられた場所が熱を持って、わたしを溶かしてしまいそうです。




側にいていいって、遠回りな態度で示してくれる彼が愛おしい。星が煌めく夜に、花柄のシュシュが揺れる。