夏、青春真っ盛りの高校生。決意のこもった少年たちの掛け声がこだまして、わたしまでも熱くする。


わたしは今、幼馴染兼、兄のような存在である同級生の部活の試合の応援に来ている。わたしたちは3年生。彼ら剣道部は今、負ければ引退、勝てば全国大会という運命の一戦を前にしている。


開催校は母校、ホーム戦だ。わたしは幼馴染として、そして放送部としてこの試合を見守っている。いつもの剣道場、なのに、空気はピリピリとしていて、まるで違う場所のようだ。



「おい、名前」

「トシ、お疲れ」

「ああ、ありがとな、見に来てくれて」

「ううん、みんななら優勝間違いないけど、やっぱり応援したいし。それに、放送部としても明日のお昼の放送で紹介したいからさ」

「そうか、まあなんだ、お前が来てんなら負けねえって。昔からそうだ。お前は勝利の女神だかんな」


ふっと微笑みながら頭を撫でてくれるトシが大好きだ。唯一わたしが虚勢を張らずに接することのできる相手。饒舌だ毒舌だと言われるわたしも、トシの前だといい意味で口数も減る。


「じゃ、俺は行くわ。」

「うん、頑張ってね!」

「ああ」


わたしは一人っ子で、兄弟というものに憧れていた。近所に住んでいたトシは同い年だけど面倒見が良くて、まるで双子の兄のようだ。よく友達に、よく恋に発展しないなと言われるが、いまいちわたしには恋というものが分からないから、その答えは保留にさせてもらった。


ではなぜ、いまいち恋というものがわからないと言ったわたしが、学校一の不良高杉晋助という男と恋人関係にあるのかというと、簡潔に言おう、流れだ。


人生には何があるかわからない、それに尽きる。




審判員の声が響く。そろそろ決勝が始まるようだ。メモの準備よし、ポジションよし。トシ、わたしを全国に連れてって。なんてね。


晋助とのなれそめは、また今度お話しよう。




運命の一戦が、始まった。











「おい」

「は」

「何してんだ、お前」

「何って、見てわかるでしょう。というかそれはこっちのセリフよ。今まさに運命の一戦が始まったところなのになんであんたがここにいるのよ。ていうか話しかけないで」

「お前さ。土方のこと好きなのか」

「ええ、好きよ、少なからず過保護でしつこい誰かさんより」

「へぇ」

「あ、総悟、あ、頑張れ…!」

「頭撫でられて顔緩めやがって」

「緩めてない、ていうか見てたの? あ、いけ、いけ! よし!!」

「お前、自分が誰のモンなのか全く理解してねェみたいだな」

「そうね、理解するまでもなくわたしはわたしのものだもの。」

「テメェ覚えてろよ…」

「きゃー怖い。総悟おめでとー!」

「くそっ」

「大丈夫よ、晋助。トシはわたしの理想のお兄ちゃん、恋人は晋助だもの。だからこの試合が終わるまでは我慢しててね。」

「あ、ああ」




顔をほんのりピンクに染めてごもる晋助はそれはそれは可愛い。騒がしい獣はどこへやら。わたしは今まで持ち前の滑舌と饒舌で人を言い負かすことを快感としてきたが、最近はこの獣を小動物に変えてしまう技を身に付けそれが新たな快感である。晋助を本気で怒らせると勝てないが、こうやって相手の知らないところで勝利するというのはとても心地いい。





小悪魔彼女








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