今ある状況を簡潔に説明すると、わたしは現在学校一の不良である高杉晋助と恋人関係にあるのだが(この関係に至るまでの経緯も大変ストーリー性に富んでいるのだがいささか長くなりそうなので割愛させていただく)、その学校一の不良、高杉晋助のことを好いているという女子生徒数名に取り囲まれている。これはテレビドラマや漫画、小説などによくあるシチュエーションだ。ベタにベタを重ねるように、場所は体育館裏。

「ねぇ、高杉くんと別れ

「嫌です」

「あんたさっきから随分とデカい態度だけど、あんまり調子乗るとどうなるかわかって

「生憎わたしは部活があるのでこれで」

「ちょ、待ちなさい!」

「あの、離していただけます? 今放送部、大会前で忙しいんです。それにわたし部長だから早く行かないと。あ、先程も申し上げたとおりわたしは晋助と別れるつもりはさらさらないので、どうしてもと仰るなら晋助にお願いしてみてください。それでは失礼。」

「あ、ちょ、」


空が青い。でももうすぐ暮れてしまうのか。無駄な時間を過ごしてしまった。大会前で少しの時間も惜しいのに。みんなもう発声練習したかな。今日は原稿読みを徹底的にしよう。大体なんで彼女たちはいつもわたしにばかり文句を言ってくるのだろう。そんなに晋助がいいなら本人に直接言うか本人をその気にさせればいいと思うの。馬鹿な人たちだわ。でもまあ嫌いじゃない。一度も噛まずに彼女たちをまくし立てられた時の快感といったら、きっとセックスよりも気持ちいいに違いない。まあわたしは処女だが。


制服のポケットが揺れる。最近スマホに買い換えて質量を増し、ポケットに入れておくには重いから本当は持ち歩きたくないのだが、どっかの過保護彼氏に肌身離さず持ち歩くようにと半ば泣き落しのようにお願いされたから仕方なく持ち歩いている。表示されている発信先の名前に嫌悪感を感じながらも、ロックを解除して通話ボタンをタップする。


「もしもし」

「俺だ。お前さっきB組の女子に

「わたしには 俺 なんていう知人はいませんのでさようなら」

「おい、ちょ、


スマートフォンというのはたくさんのアプリがあって面白いが、よく画面が固まってしまったり操作が難しかったりと問題点も多い。最近ハマっているのは滑舌をチェックしてくれるアプリだ。実に楽しい。


この暑い季節にご苦労様です、と運動部のみなさんに尊敬の念を贈りつつ、自分も部室へと急いだ。


制服のポケットが再び震えた。さっきからなんなんだようるせーな、なんて思ってないですよ、はい。相手を確認すると前回と同じ過保護でしつこい誰かさん。わたしは今から部活なのごめんね、と心の中で謝罪してそれをポケットにしまう。この階段を上ってしまえば部室はすぐそこだ。


「おい」

「…どちら様でしょう。」

「誰かさんの彼氏の高杉晋助だ」

「へぇ、それで、わたしに御用でも?」

「ああ、言いたいことはたっくさんあるんだが、まず一つ質問だ。お前は今、制服のポケットから鳴っている携帯を取り出し、画面を確認し、その着信に応答することなくそれをもとあったところにしまった。なぜ発信相手を確認したにもかかわらず電話に出なかったのか、教えてもらおうか。」




冷や汗が、こめかみを通過した。
わたしはこいつには勝てないのである。





饒舌彼女



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