02



初夏の涼やかな風が吹き抜ける屋上に、紫煙が揺れる。

先月から、敷地内全面禁煙なんですがね。



「最近過ごしやすくなったなァ」

「そうですね」

「なんだ、五月病か」

「もう7月ですけどね」

「梅雨もすっかり明けたなァ」

「そうですね」




この学校に転勤してきて3ヶ月。高杉先生、もといわたしの元彼は、なんだか知らないがわたしに対してうざいくらい絡んでくるというかちょっかいを出してくる。正直めんどくさい。男というのは本当にめんどくさい。




「高杉先生、わたしの貴重な休憩時間を邪魔しないでいただけませんか」

「んな小せえこと言うなよ。苗字センセ」

「はぁ…」



持ち授業がない時間、わたしは大抵社会科準備室で研究をしているのだけれど、今日はなんとなく息抜きがしたくてコーヒーを片手に屋上にやってきた。空は高く澄んでいて、空気は程良く冷たい。フェンスに腕をついてぼーっと街を眺めながらコーヒーを啜っていたら、いつの間にか隣で煙をくゆらせた彼が嫌な笑顔をこちらに向けていたのだ。心臓に悪い。




「なぁ、名前」

「何」

「あれから今まで、どうしてたんだ」

「どうしてたって…採用試験のためにずっと勉強漬け。受かってからは研究漬けよ。」

「へぇ」

「昔のこと掘り下げようなんて、無粋ね。わたしは思い出話に花を咲かせられるような女じゃないわよ」

「わーってるよ。だが、知りたいと思うのは仕方あるめぇ」

「は?」

「言っただろ。俺はお前を諦めちゃいねぇ」

「まだ言ってるの」

「そうそう軽くないんでな」

「ふーん」

「あれから、何もかも中途半端なんだ。俺の大事なモン、全部そこに置いて来ちまった」

「そんなこと今更言ったって、」

「今目の前にあんだぞ、それが。取り戻さねぇでどうする」

「わたしの意志はどうなるのよ」

「お前の意志も、だ」

「馬鹿じゃないの…」




歳を取ると恋愛に臆病になるとはよく言うが、全くその通りだと思う。まだ二十代のわたしがこんなこと言うのも可笑しいかもしれないが、確実に十代のときのわたしは臆病とはほど遠い性格だった。彼の言葉と瞳が、世迷い言を言っているのではないと、痛いくらいに分かるのに。わたしはあのときから、逃げてばかりいるのだ。





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