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けたたましい機械音で目が覚める。カーテンの隙間から差し込む朝日が眩しくてくらくらと眩暈がした。


月曜日というのはなんて憎いのだろう。また今日から一週間、働きづめか。そんなことを思いながらも、身体は仕事へ向かうために支度を始める。わたしの場合、なりたかった職業に就いているだけ幸せ者なのだ。朝食は軽めに果物ゼリー。ベランダの観葉植物たちに水をやり、部屋を出る。



5月、赴任して1ヶ月。新しい職場には大分馴染めてきた。だが、大きな問題がひとつ。




「苗字先生、おはようございます!」

「おはよう」




何度かこのやりとりを繰り返し、職場である私立高校へ到着した。



「ああ、おはようございます、苗字先生」

「あら高杉先生、おはようございます。ところでなぜ高杉先生がここに?」

「朝の保健室なんざ大概暇なんだ。銀時はまだ来てねぇし、苗字先生に相手して貰おうと思ってな」




ニヒルに口角をつり上げるこの男、養護教諭高杉晋助。青春時代を共に過ごした、というか、わたしの初めてをすべて持って行った男。大学3年生のときにいろいろあって別れた彼と、1ヶ月前ここで再会したのである。




「そうですか。それにしても、社会科準備室に白衣は不釣り合いですね」

「おいここ、埃っぽいな。掃除しろよ」

「他の社会科の先生方はめったにここ、使わないんです。だからわたしの研究室みたいになっちゃってて。汚くてすいません。でもわたし、これくらいが落ち着くんです」

「へぇ」

「あ、ここで煙草、吸わないでください。大切な資料ばかりですので」

「わーったよ」

「喫煙は指定の場所で。わたしが叱られますから」

「へいへい」

「あ、ちょ、勝手に物を動かさないないでください!」

「あ? んな散らかってんのに変わんねーだろ」

「そういう問題じゃないんです。散らかってても場所は把握してるんです」

「そーかい」

「ああ、もう…」

「お前のそういうところ、変わってねーんだな」

「悪かったですね」

「なあ、その喋り方やめろよ」

「一応勤務中ですので」

「名前」

「…」

「俺はまだ、お前を諦めてない」




本当、たちが悪い。自分の武器をしっかり把握してらっしゃる。わたしは今日の授業で使うプリントを整理しながら彼の言葉を軽く受け流して、煎れたてのコーヒーを啜る。わたしの青春を捧げた男に、こうやって再び振り回される日々が訪れるなんて。神様はわたしの傷口に塩を塗って楽しんでいるのだろうか。



女という生き物は、いつまでたっても幸せだった過去に捕らわれてしまうものである。

そして男は、元カノに対して自意識過剰な生き物だ。






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