わがままなわたしを


いつだって彼はわたしを置いて先へ行ってしまう。放課後一緒に帰ろうと約束していたのにいつの間にか置いて行かれたり、一緒に見に行く約束をした映画を先に見てしまったり。小学生のときまではそれが凄く嫌で、何度も泣いたりしていた。けれど中学生になってからは、そんな小さなこと、気にしないようにしていた。彼に悪気はない。ちょっと、いや大分天然で、わたしが咎めればちゃんと謝ってくれる。だから、小さなことなど気にしないように自分に言い聞かせてきた。


だけど、彼はまた、わたしを置いて行ってしまった。



わたしたちは所謂幼なじみで、中学生になってからはお互いがお互いを好きなのは気づいていた。でも彼はバスケが何よりも大好きだ。何よりもバスケが好きで、チームメイトが好きで、バスケに誠実な男だった。中学生のころよりもバスケに打ち込んで、全国制覇目指して毎日毎日練習していた。その分わたしが彼と一緒に居る時間は減っていき、気づけば彼は、わたしからとても遠い存在になってしまった。



「来てくれたのか、名前」

「お母さんからこれ、鉄平にって」

「おお、サンキューな」

「どう、最近」

「リハビリはキツいけど、バスケの練習ほどじゃないな。あ、あとな、花札教えてもらったんだ。面白いぞー」

「そう、よかったね」



わたしから彼との時間を奪ったバスケは、彼をあっさりと突き放した。正直わたしは、彼を独占するバスケが嫌いだった。わたしとの約束よりバスケを優先する彼が嫌いだった。でも、誰よりもバスケに夢中な彼が、大好きだったんだ。


「バチが当たったのかもな」

「え?」

「名前との約束、いつも守れなかったから」

「何言って、」

「名前が俺のこと好きなの、気づいてた」

「…」

「気づいてて、気づいてないフリをしてたんだ」

「なんで」

「俺はバスケが好きだ。名前とバスケ、どっちも同じくらい大切だった。でも、名前なら、俺にバスケを優先させてくれるだろうって、名前の気持ちを利用して、勝手に決めつけてた。酷い男だろ」

「ホント、最低だ」

「名前がバスケをよく思ってないのもわかってたんだ。だけど俺にはどちらか選ぶなんて出来なかった。なのにこのザマだ。名前の気持ちに気づいてて、どっちも失いたくなくて、答えを出すことから逃げてた。結局、どっちも失っちまった。馬鹿だよな、俺」

「ホント、馬鹿だよ、鉄平は。なんでいつもいつも、勝手に決めつけるの。バスケもわたしも、そんなに簡単に諦めないでよ…!」

「名前、」

「確かにわたしはバスケが嫌いだ。だけど、だけど、わたしは、バスケしてる鉄平が、好きだから、だから、」

「なあ、名前…。今からでも、間に合うか?」

「わたしはずっと、待ってたよ」

「ごめんな、名前、ごめんな」

「怪我、治ったら、ちゃんと言って」

「ああ、わかった」

「それまでは、お預けだから」

「はは、それじゃあ尚更早く治さなくちゃな」

「あんまり待たせると、他に靡いちゃうからね」

「それは困るなあ」



昔から彼は、わたしを置いて先に行ってしまう。でももう置いていかないで、わたしも連れて行って。わたしもあなたを、諦めないから。






彼の大きな両の掌に頬を包まれて、小学生のころのように泣きじゃくった。

わがままなわたしを、許して



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