つまるところ


「だから嫌だって言ったのに! アホ! バカ! バ和成!!」

「だからごめんって!」

「そう簡単に許してあげると思わないで!」




信じられない。お互いの部活のオフが奇跡的に被り、久々のデート。久々すぎて変に緊張して、いつもよりお洒落やメイクも頑張って、待ち合わせ場所には10分前に着いちゃったりして、とにかくわたしはこのデートを楽しみにしていたんだ。デートの場所は最近出来た大きなショッピングモール。観覧車なんかもあって、最近人気のデートスポット。今日1日、一緒にショッピングして、ランチして、最後は観覧車に乗る約束だった。だがしかし、そのショッピングモールに着いてふと目に付いたポスターに、コイツは、和成は、目を輝かせた。そして半ば無理矢理わたしの腕を引っ張って、そのポスターに書かれていた場所へ足を向けた。



目下に迫る本格的な夏を前に、そういった催しが開催されるのはおかしくはない。《恐怖の館》と、あまりにも狙いすぎなフォントで恐ろしさを醸し出すそれ。夏だけの期間限定で開始される、謂わばお化け屋敷。ここで1つ言っておく。わたしはこういった類のものが大の苦手だ。



「やだやだやだやだ! 絶対やだ!!」

「大丈夫だって! 見るからに大して怖くなさそうじゃん! な!」

「な!じゃないわよ! わたしがこういうの苦手だって知ってるでしょ!?」

「わーってるって、でも俺も居るんだからだいじょーぶ! よし、入っぞー」

「やだやだやだ!!」




このときなんでもっとちゃんと抵抗しなかったんだろう。まあ今更後悔しても遅いんだけどさ。結局お化け屋敷に入ってから出るまで終始号泣して、メイクもぐちゃぐちゃで今に至る。



「だから、ひっく、嫌だって、言ったのにぃ! お化けにも心配されちゃったじゃんかあああ!」

「あはは、お前まじ最高だわ!!」

「何笑ってんのよばかあああ」

「悪い悪い、ほら、お詫びに何でも奢ってやっから機嫌直せって」

「…パフェがいい」

「ゲンキンなやつだなあ」

「うっさい」

「はいはい、わーった、パフェな。じゃあ早速パフェ食いに行こうぜ」

「ちょっと待って、メイク直すから。あーあ、折角頑張ってお洒落したのに、台無しだ…」

「名前はそのままでも十分可愛いぜ?」

「…バ和成」

「はは、名前ちゃん顔真っ赤ー」

「うるさい! パフェだけじゃなくてケーキも食べるぞ!」

「どーぞお好きなだけ。怖くて泣きながら俺にしがみついてくる名前ちゃんも可愛いかったけど! 甘いもの美味しそうに食べる名前ちゃんも好きだからね」

「…ばーか」

「拗ねてるくせに顔真っ赤にして照れてる名前ちゃんもだーいすき」

「〜〜!!」

「まっ、どんな名前も全部好きなんだけど。ほら、行くぞ!」




不思議なことに、和成が隣に居るだけで何でも楽しくなっちゃって、それまでの不満や不安はどこかへ飛んでいってしまう。強引で、意地悪で、だけど最後までひたすら優しくて。そんな彼が大好きすぎてちょっと悔しい。



つまるところ、
ゾッコンなんです。




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