午前2時の逢瀬


午前2時。どうしても会いたいと泣きながら懇願する電波の向こうの彼女に口元が緩んだのは本人には秘密だ。


最近精神的に不安定な名前。家庭の事情だと本人は言っていたが、どうやらそれだけじゃあないらしい。彼女の家庭が上手くいってないのは、もうずっと前からだ。名前とは中学生のころから付き合っている。俺が言うのもおかしいが名前の精神的支えが俺だということは確かだ。



彼女の部屋に着いてすぐ、すがりつくように迎えられた。こんなに泣きじゃくる名前を見るのは初めてで正直かなり驚いた。


「どうしたんだ、何かあったのか?」

「和成が、和成が遠くなってく、怖い」

「は?」

「和成、どんどんバスケ上手くなって、かっこよくなって、だけどわたしは、何の取り柄もないし、全然可愛くないし、釣り合わないって、わかってるけど、」


喋るにつれて嗚咽が酷くなっていく彼女の背中を、ゆっくりと撫でてやって、次の言葉を静かに待つ。正直言っている意味がよくわからない。取り柄がない? 馬鹿いうな、名前は誰よりも周りを見ていて、誰かのために行動することが出来るじゃないか。可愛くない? 馬鹿いうな、名前より可愛い奴なんてむしろ居るのか。遠くなってく? 馬鹿いうな、俺はいつだってお前の側にいて、お前を守るんだ。



「だけど、だけどっ、誰よりも和成のこと、大好きなのは、わたしだもん…!」



ついこの間、緑間に聞いた。名前が嫌がらせにあっている、と。何で俺の知らない名前のことを緑間が知っているんだ。そう胸の底で思いながらその場で留めて、詳細を聞いた。何でも、俺のことを好きだという女が、その周辺の仲間と揃って名前に様々な嫌がらせを施しているらしい。悔しい、というより、情けなかった。本人からではなく、緑間からその現状を聞いたこと。そして、俺はいつだって名前の一番近くに居たはずだったのに、気づいてやれなかった。その事実に。



「俺は名前以外興味ないし、名前以外いらないし、名前が隣に居てくれればそれ以上の幸せはないんだ」

「うん、」

「遠くに行ったりなんかしない。行けやしない。俺は名前が居ないと、生きていけないんだ」

「うん」

「だから、今度はちゃんと守らせて。もう何も、隠さずに俺に言って、もっと頼って」

「ありがとう、ありがとう和成」



涙でぐちゃぐちゃな顔で、いつもみたいに困ったように笑う名前を思いっきり抱きしめて、優しくキスをして、額を合わせる。俺はこの愛おしい彼女を手放すつもりはさらさらない。どこのどいつか知らないが、名前を傷つけるやつは女でも容赦しないから覚悟しとけ。



「ね、和成」

「ん?」

「大好きだよ、誰よりも、一番」



暗い部屋でもわかる。顔を真っ赤にしてるんだろうな、今。恥ずかしそうに微笑む名前を勢いよく抱き上げて、真っ白いシーツの海にダイブした。



「親、は?」

「居ないよ。明後日まで帰ってこない」

「そっか…」

「いいよ、シても」

「じゃあ遠慮なくイタダキマス」

「うん、優しくしてね」

「善処する」




漆黒の艶やかな髪が、真っ白いシーツに散って、揺蕩う。年相応とは言い難い色気を孕みながら、嬉しそうにこちらを見つめる双眼は幼く、俺の理性の壁を壊すには十分すぎた。



午前2時の逢瀬




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