苦い恋の後には
失恋した。
わたしの淡い片想いは、呆気なく散ってしまった。
ずっと好きだった。緑間くんのことが。中学生のころから、ずっと好きだった。友達には変わってるだの見る目ないだのやめておけだのと散々言われたが、わたしはやっぱり彼が好きだった。すらっとした長身、長い睫毛、成績優秀、バスケは全国区。毎朝おは朝の占いをチェックして、ラッキーアイテムまでしっかり常備してるところもなんだか可愛くて。わたしはずっと彼が好きだった。
梅雨の盛り、降り続ける雨、じめじめとした教室。昨日は珍しく快晴で、素晴らしい告白日和だったというのに。ひとりぼっちの教室で、ぼおっと昨日のことを思い出してみる。でも胸が苦しくて、そっと机にうっ伏した。
追いかけるようにやってきたこの高校。受験が成功したときは本当に嬉しかった。でも今は苦でしかない。だってわたしの隣の席は、昨日わたしをフった緑間くんなのだから。
「あーあ、何してんだろ、わたし」
屋上に呼び出して、言葉を飾ることもせずただ「ずっと好きでした。付き合ってくれませんか」と。返ってきた言葉は「すまない」の一言。
知ってたよ。彼にはバスケしか見えていないことくらい。わかってたけど、伝えずにはいられなかったんだ。雨は強くなる一方で、さらに気分は落ち込む。やるせない。
「あっれー? 名前ちゃんだ。こんな時間まで何してるのー?」
「高尾くん…」
「どうしたよ、そんな辛気くさい顔して」
「ちょっと、傷心中」
「何、失恋でもした?」
「あはは…」
「えっ、図星?」
「まあね」
心底びっくりした表情の高尾くん。図星を突かれたわたしは、苦い顔を向けるしか出来なかった。
「もしかして、だけどさ。相手、真ちゃん?」
「…うん」
「そっかー…。いや、なんとなくそうじゃないかなーって思ってたんだよね。名前ちゃん、いつも真ちゃんのこと見てたからさ」
「そ、そう?」
「うん。だって俺も、ずっと名前ちゃんのこと見てたから」
「…えっ、それってどういう」
「名前ちゃんが真ちゃんのこと好きだったのと同じように、俺も名前ちゃんのこと好きだったから」
「えっ、えっ、」
高尾くんはわたしの隣の席、つまり緑間くんの席に腰を降ろし、さも当然のようにさらりと言ってのけた。
「た、たか、高尾くん、今の…」
「なんかこういうの、良くないってのはわかってるんだけどさ、やっぱりチャンスではあるじゃん。卑怯な手だけどさ」
「た、高尾く、」
「今すぐ答えが欲しい訳じゃないんだ。これから俺のことも見て欲しい。真ちゃんもいいやつだけど、俺のことも、少し」
「えっと、うん…」
「ごめんな、びっくりさせて」
「ううん! 確かにびっくりしたけど、でも、嬉しい」
「え?」
「ありがとう、高尾くん」
ほんのり頬を赤くした彼を、そういう目で見る日は近いかもしれない。心のどこかで、そう予知した。
苦い恋の後には、酷く甘い恋をください。