愛が生まれて育つとき
「休みの日くらい、ちゃんと家事手伝ってよね」
女は子供を産んだら変わるというのは本当らしい。最近は小言というか、嫌味を言われることが増えてきた。昔はよく尽くしてくれるいい女だったんだけどなァ。なまえがイライラピリピリしてるときは素直に言うこと聞いておくのが安全策だ。
チビは積み木遊びに疲れて眠ってしまったので、そっとタオルケットをかけてやって、洗濯物を取り込む。なまえもうすぐ帰ってくるだろうから、リビングの片付けもしておく。俺はなんだか主夫になれそうな気が一瞬したが、やっぱり向いてない思う。
誕生日なんてもう祝うような歳でもないが、日付が変わった瞬間におめでとうと言われて素直に嬉しいと思った。だが、おめでとうとおやすみがほぼ同時で、すぐにチビを抱いて眠ってしまったなまえに、二人でいる時間の経過とマンネリ化について考えざるを得なかった。これが夫婦というものなのだろうか。少しだけ切なくなりながらも、いつもより豪華な晩飯と食後に出された小さなホールケーキに、なんだかんだ喜んでる自分もいる。完全に踊らされているのには気づかないフリをした。
「ねー」
ダイニングテーブルを布巾で拭きながら伸びた声を発したなまえの表情は見えない。
「あのね、誕生日プレゼントなんだけど」
「おー」
「二人目、で、いいかな」
声を微かに震わせて言った言葉はあまりに抽象的すぎたが、俺はその意味となまえを支配している不安をすぐに理解した。
「出来たの、二人目。今日、産婦人科行って来て…。そこの、テーブルの上の封筒に、エコー写真入ってるから」
「…おおお、いるな」
「うん…えっと、その、産んでも、いい?」
「阿呆か。産まなきゃ誕生日プレゼントにはなんねェだろ」
そっと抱きしめてやると、泣きながら笑っていて、ああ、俺はこいつのこういうところに惚れたんだったと思い出して、なんだか、胸の奥がぎゅっと痛くなるのを感じた。
「誕生日おめでとう、晋助。」
ありがとうの意味を込めてたくさんのキスをすると、なまえは昔と変わらない、俺の愛した笑顔をくれた。お前とお前の大事なものは俺が守ってやると誓ったあの日の思いは、少しも揺らいでいない。
Happy Birthday to SHINSUKE
2014/8/10
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