「ちょっとー!晋助ー!!」
「んだようるせーなァ」
「止まるならゆっくり止まってよ! 顔面打ったじゃん!!」
「文句あンなら降りろ」
「これわたしの自転車!!」
もうすぐ夏休みが終わる。今年は高校最後の夏休みだから、いっぱい遊ぼうねって約束してたのに、結局晋助はバイトばかりで、わたしも仕方なくほぼ毎日、だらだらするか受験勉強の日々。毎日連絡は取っていたけど、会うことはできず。駄々をこねていたらやっと、バイトが早く終わったからって誘ってくれたのが今日の昼。太陽はまだてっぺんにあって、鋭い日差しが降り注ぐ。
「ねー」
「んー」
「バイト、朝早かったんでしょ? 疲れてるんじゃない?」
「べつに」
「お前はエリカ様か」
「つーかお前がうるせェんだろ」
「う…ごめん…」
「まァいいけどよ」
シャカシャカと小気味いい音を立てながら進む自転車は、颯爽と街を駆けていく。両手に掴んだ晋助の服が伸びないかちょっと心配だったけど、それよりも、華奢な背中と香水の匂いが、わたしの心臓をいつもより大きく揺らしていてつらかった。
「名前」
「っ、ん?」
「着いたぜ」
晋助の首筋を流れ落ちる汗がなんとも扇状的で見とれてしまっていた。振り返った晋助にこつん、と頭を叩かれ、自転車から降りる。
隣街にある、今年の春に出来た大きな公園。ずっと二人で来たかった場所だ。刈り揃えられた芝生に背中を預けた晋助にならって、わたしも同じように隣に寝ころぶ。視界に広がる青が、眩しい。
「なァ、名前」
「んー?」
「こんなこと言うのは可笑しいかもしれねェが、俺ら多分、前にも一緒に居た気がするんだ」
わたしもずっと、そんな気がしていた。初めて会ったとき、ありふれた言葉だけど、運命だと思った。
「わたしもこの空、どこかで見たこと、あるんだよね」
「そうか」
「前世でも、晋助と見たのかも」
「そうかもな」
「変な感じだね」
「あァ」
身体を起こした晋助はそっとわたしを覆うようにして、キスをした。遠くでは子供たちがはしゃぐ声が聞こえて、ちょっと背徳感。唇が離れていくのが寂しかったけど、ここは真昼の公園だから仕方ない。
空と晋助だけが、わたしの視界に映る。晋助はいつも、綺麗だ。
「今度はお前を守るから」
そう言ったのは確かに晋助だった。
そして、あいてるよ、と返事をしたのも、確かにわたしだった。
もしこの世に前世とか来世とかそういった輪廻転生のようなものがあるとするならば、わたしは前世も晋助と出会っていただろう。そして来世でも、晋助と出会いたいと思う。
(20130810)
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