カラリと晴れた大地。熱をもった風が生臭い鉄の匂いを乗せて吹き抜ける。
緑を埋め尽くすように敷き詰められた、天人か人間かももはやわからない死体の数々。日に焼かれ、虫は舞い、腐敗が進むそれらを踏みつけながら歩く。この死体の中に、こちらの仲間はどれくらいいるのだろうか。そんなこともわからないまま、それでも前を向いて歩いていく。
「今日は何人死んだかな」
「さァな。いちいち数えてらんねェだろ」
「まあそうだけど」
「死んだヤツのことは考えるな。目の前だけ見てろ」
「それ、そのまま晋助にお返しするわ」
「俺ァいつだって前しか見てねェよ」
「どこがよ」
「…とにかく、だ。戻ったらすぐ作戦練り直すぞ」
「うん、わかってます、総督」
「クク…頼りにしてるぜ、参謀」
顔を上げれば空は天高く澄み渡っているのに、ふと視線を落とすとこの有様。ああ、地上とはなんて醜い世界なのだろう。人間とは、なんて醜い生き物なのだろうか。
こんな戦もうやめてしまいたい。それが本音だ。でも、わたしは晋助を守るために戦うのだ。先生に育てられ、晋助に買われたこの頭脳で。
ふと、ふわふわ天パとうざったいロン毛、それから脳天気なもじゃもじゃの顔が頭をよぎって、なんだか泣きそうになる。
「名前」
「なに?」
「つらいか」
「全然」
「そうか」
晋助が、あまりにも、優しい顔をするから、わたしはまた泣きそうになって。
だいすきだよ、そう、言おうとしたの。
パン、と乾いた音が荒野に響いた。それと同時に、わたしの身体が大きく揺れて、隣を歩く晋助が両目を大きく開いて、ああ、わたし、撃たれたんだ、と、崩れ落ちる膝元から絶望した。
「名前!!!」
わたしを撃った相手は、すぐさまきびすを返したから、顔までは見えなかった。けれどきっと幕府の人間だろう。よかった、撃たれたのが晋助でなく、わたしで。揺れる視界に映るのは、真っ青な空と、晋助。晋助は綺麗だ、本当に。
「しん、す、」
「クソ!! なんで名前が…!! なんで…!!!」
「ね、しん、わたし、」
「クソ…血止まんねェ…クソ…!!」
血が喉を逆流して、咳と同時にそれを吐き出した。ああ死ぬんだ、そう思って晋助の顔を見たら、晋助は泣いていて、なんだか可笑しい。
「何泣いてるの、しんすけ」
「喋るな…!頼むから…!死なないでくれ…!!」
「それ、喋るなって頼んでるの、それとも、」
「いいから黙ってくれ…!!」
「ごめんね、晋助、ちょっと、早いけど、せんせいのところ、先に行ってるね」
「名前…!!」
よかった。死ぬときに、綺麗なものだけを見て、愛する人の腕の中で死ねるなんて。
「しんすけ、まってる、からね、」
「名前!名前!!」
「あいしてるよ」
最後に愛してるって言えて、よかった。
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