おとな
最近、本当に急に、暑い日が続くようになって、その天候の変化に身体が追いつかない。船の上は地上よりも涼しい印象を持たれがちだが、実際はそうではなく、強い日差しをただただ浴び続けて、地上に陰を作るだけである。稀に、冷たい風が肌を撫でるように吹くけれど、それはほんの一瞬で、気休めにもならない。
隊士たちが汗を流しながらせっせと働いている中で、わたしは甲板の、気持ち程度の物陰に腰を下ろして空を仰ぐ。例の大食いの団長さんと大事な仕事があるとかで宇宙へ飛んでいった総督が、ついさっきご帰還されて、そして、地球の暑さにやられてしまった彼はたったいま、わたしの膝の上で逆上せているのだ。
「暑ィ…」
「夏、だからね」
「身体がベタベタする…」
「…ホント、暑がりなんだから」
箪笥の奥から引っ張り出した、朝顔の描かれている団扇で、ぱたぱたと風を起こしてあげる。細くて艶やかな髪が揺れて、彼の匂いが舞い上がる。なんだか、くやしい。
「晋助は、青空が似合わないね」
四六時中、何をしたって扇情的な彼が憎くて、ちょっと悪態をついてみても、くつくつを喉を鳴らすその仕草ひとつにまで身体が火照る自分が、なんだか惨めだ。
「酒、飲みてぇ」
「まだ昼よ、ばか」
「じゃあ氷」
「子供じゃないんだから」
「あぁ」
「子供じゃ、ないのよ」
「わかってる」
たまに、こうやって子供じみた行動をする彼を、わたしは受け止めたいと、思っている。いつも、大人ぶって嗜好に興じる彼も、受け止めたいと、思っている。彼の全部を、受け止めたいと。
「ねぇ、晋助」
「あ?」
昔から変わることのない柔らかな髪の手触りを確かめながら、わたしはこの矛盾と孤独に溢れた男を、守りたいと、思うのだ。
「かき氷、作ろっか」
「おぅ」
たまには昔を懐かしんでも、いいよね。
正しさの追求をやめた、不出来な大人でも。