いちばん
コンタクトを外して、眼鏡をかけようとしたその時、ふと思い出した。寝室に眼鏡を置いたままだということを。
ぼやけて殆ど何も見えない視界のまま、寝室へ向かう。覚束ない足取りでリビングを横切ろうとしたとき、何か大きくて堅いものを蹴った。
「痛ぇ」
「あぁ、ごめん」
蹴ったものの正体は、何故かフローリングに直接へばりついていた銀時だった。
「何してんの」
「疲れた」
「じゃあ布団行きなよ。それかせめてソファ」
「身体動かねぇ」
「はぁ…」
裸眼だから、銀時がどんな表情をしているのか見て取ることは出来ないけれど、声色でわかる。本当に疲れてるんだろうなぁ。
「ほら、起きて。布団行こう」
「誘ってんのか? 俺今日は上で頑張れるほど体力残ってねぇぞ」
「何馬鹿なこと言ってるの」
「お前が上で頑張るってんなら、」
「戯れ言ほざく体力はあるみたいね」
「チッ、つれねーな」
「疲れてるんでしょう。ほら、早く」
背中にのし掛かってくる大きな子供を抱えながら、寝室へ向かう。もうホント、手の掛かる男。寝室の扉を開けて、布団へ投げ捨てる。重かった。
「眼鏡、眼鏡、」
「ほら」
「ああ、ありがと」
「お前さ、」
布団の上で仰向けになってわたしの顔をのぞき込んでくる銀時は、トロンとした瞳を携えて、今にも眠ってしまいそうだ。
「なあに」
柔らかい髪をそっと撫でてやると、銀時は、瞼をそっと閉じて、そしてゆっくり開いて、言った。
「やっぱり、お前がいちばん、かわいいな」
突然、何をもって、そんなことを思うのか。甚だ疑問だ。まじまじと見つめられて、何て返せばいいのか、わからなくて、混乱。顔が、熱い。
「ば、ばかじゃないの」
「そういうところが、かわいいんだよ、バァカ」
「…リビングの電気、消してくる」
「おー」
豆電球が、いつもより眩しい。