念願かなって合格した高校。真新しい制服と鞄、靴は中学の頃から履き慣らしたローファー。街は青々としていて、わたしとおんなじ。憧れだったバス通学にどきどきしながら、時間通りに来ないと定評のある路線のバスを待つ。予定時刻の3分後にやってきたバスに乗り込み、定期をかざす。ピピッっと音が鳴って一安心。席はちらほら空いていて、わたしはなるべく後ろの席に座った。ウォークマンで大好きなバンドの大好きな曲を聴きながら、新しい世界に絵の具を足す。


バスは高校の目の前で停車し、荷物をまとめ駆け足で下車。瞬間、ふわっと香った桜。もう大分青くなってはいるが、申し訳程度に残っている花たちが精一杯わたしを祝ってくれているようだった。



校門をくぐり、クラス分けの表で自分の名前を確認する。知らない名前ばかりの中で、どこかで見たような名前があった。





「たかすぎ、しんすけ…」




誰だったか、いつどこで会ったのかも全く思い出せない。頭の中でぐるぐる考えてみたが、だめだ、わからない。もんもんとしながら下駄箱に向かうと、わたしの番号のあたりに、なんか怖い、明らかに雰囲気が他の男子とはちがう、片目に眼帯をした人が背を凭れて立っていた。




「あの、そこ、わたしの下駄箱があるので、少しどいていただけませんか?」

「お前、名前は」

「苗字名前です。あなたは?」

「俺ァ、高杉晋助だ」




この人がたかすぎしんすけ。こんな人、やっぱり知らないよ。なんて心の中で嘆いた。切れ長で鋭い目つきと危ない雰囲気が怖くて、数分前までのうきうきわくわく新学期の気分はどこかに飛んでいった。




「久しぶりだなァ、名前」

「えっと、すいません、わたし、あなたのこと全く覚えてないんですが、わたしたちっていつどこで知り合ったどういう関係ですかね?」

「覚えてねェのかよ」

「すいません…」

「まァ無理はねえか、もう10年も前の話だしなァ」

「10年…?」

「お前、吉田そろばん塾、通ってただろ?」

「あ、はい、1年くらい通ったけど引っ越すことになって辞めちゃって」

「あのとき、俺もお前と一緒に習ってたんだぜ」

「え、え、あ、もしかして、もしかして、え、え、しん、ちゃん…?」

「やっと思い出したか」

「えっ、ええええええ!?」






10年前、通っていたそろばん塾。新入りのわたしにいろいろ教えてくれて、よく一緒に遊んだ男の子がいた。男の子同士ではよくケンカしていたけど、わたしにはとても優しくしてくれた。目がくりくりきらきらした、笑顔の可愛い男の子だった。


10年という月日で何があったのかは知らないが、人はこうも変わってしまうのかと思うくらいの変貌に、わたしは出す言葉も見つからなかった。




「懐かしいな」

「随時雰囲気変わってたから、全然わからなかったよ…」

「お前は変わらねェな」

「そ、そうかな」

「俺、あの頃お前のこと好きだったんだぜ」

「え、そうなの?」

「変わってなくてよかった」

「へ?」

「俺、まだお前のこと好きだから。覚悟しとけよ?」




10年も経ってるのにそんなバカな、とは思いながらも、あの頃の彼と同じ優しくて幼い笑顔を見せるもんだから、今までとこれからの彼のことを知りたいと思った。覚悟、しておこうじゃないか。





初恋は再び


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