今日はまた綺麗な月が出てるなあ、としみじみ思っていたら、隣の部屋で万斉と酒を酌み交わしていたはずの晋助がすっとわたしの腰に腕を回していた。

「あれ、もうお酒はいいの?」

「あァ」


京のとある川を下る船。外はちらちらと明かりを灯し、街はまだ眠っていない。攘夷浪士も闇に姿を隠し、大きな月に血を騒がせる。ここにも、月に血を騒がせている獣が一匹。



「お前と出会った日も、今みたいな満月だった」

「随分と昔の話ね」

「あァ、まだ塾にいたときだ。あのときと同じ、でけぇ月だ。」


後ろから抱きしめわたしの髪に顔をうずめる晋助は、まるでいかないでとごねる子どものようだ。彼はわたしをかぐや姫とでも思っているのか。


「わたしはどこにもいかないよ。ずっと晋助のそばにいる。あの頃から晋助を好きな気持ちは変わらない。ううん、もっと好きになってる。わたしはもう、晋助なしでは生きていけないんだから。それに、」



身体をくねらせて正面から捉えた晋助の目は、川面に映る月の光のようにゆらゆらと不安げに揺れていた。



「わたしは最期も晋助と共に迎えたいの。だから、わたしを離さないで捕まえていてね」

「あァ、言われなくてもそのつもりだ」



言葉のわりにやわらかい表情を見せる晋助をわたしだけが知っていて、これからもわたしのためだけに見せて欲しいなんてわがままなのだろうけど、それでも晋助は言わずともそうしてくれるんじゃないかと思う。それだけ晋助は、わたしのことを愛しているから。


短い口づけをして、わたしたちは夜の行為に溶けるのだ。






寂しがりの獣


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