出会いはいつだったか。それすらも忘れてしまったくらい、わたしたちは幼い頃から一緒だった。攘夷戦争が始まり、わたしは幕府に拘束され京の遊郭に入れられた。最初は彼ではない男に抱かれることがこの世の終りよりも辛くて苦しくて。でもあの日約束した言葉を脳内で何度も思い出しながら耐え忍んできた。



「必ず迎えに行く。だから、生きて待っていろ。」



わたしが遊郭でいちばんの遊女になったある日、身請けの話が持ち出された。話で聞くところ、その御方は京の大地主で、わたしの噂を耳にして身請けを決めたという。抱いたことも、それ以前に会ったこともないような遊女を、多額の銭をかけて身請けするとは、大層な大金持ちなんだろう。

幕府に無理やり入れられた遊郭、子も孕めない身体になり、恨みばかり募るこの世界だが、ここの奥さんや旦那さんはわたしを娘のようにして可愛がってくれた。売り物だからそうしたのかもしれないが、ここの夫婦には感謝している。




ここを出る日が明日に決まったらしい。まるで他人事のようにその事実を飲み込んだ。わたしがここに来てから5年くらいかしら。生きて待っていたけど、わたしは恩を返すためにほかの男のものとなります。あなたとの記憶が薄まってしまった今、後悔はありません。




あなたの噂はこの箱の中でもよく耳にします。過激な活動をしているようですが、どうか死なないでいてください。離れていても、同じ世界に生きているということだけでわたしは満足です。













「さあ、お迎えが来たわよ」

「はい。奥さん、今までありがとうございました」

「いいえ、あなたこそ、最後までありがとう」




この箱から、やっと出られる。涙が溢れ出しそうで空を見上げたら、空がわたしを呼んでいた。たくさんの人に見送られ踏み出した箱の外には、いつかの面影を孕んだ紫があった。



「あら、京の大地主さんって聞いてたんだけど」

「あァ? 大して違いはあるめェよ」

「会ったことも抱いたこともない御方がここいちばんの遊女を買うっていうから、はたしてどんな大層なお金持ちかと思ったらまあびっくり」

「俺ァもっとなんかこう、泣いて喜んだりするかと思ってだなァ…」

「あんまりびっくりして涙も出ないわよ」

「まあいい、行くぞ」

「どこに?」

「世界を壊しに、だよ」

「まあ怖い」





幼い頃と同じ笑顔で私の名前を呼ぶ彼に、同じようにわたしも晋助と呼べば、あの頃よりまた大きくなった背中に思いっきり飛びついた。







最果て、ランデヴー


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