季節は過ぎた。残酷な時の流れに飲み込まれて、辺りはもう秋だという。


俺は取り残された。限りなく、夏は続くと思ってた。




「ね、晋助」
「なんだ?」
「今度、来週の土曜日。海に行きたい」
「いいけど、お前泳げないだろ」
「泳げないけど浮き輪あるし! せっかく夏なんだから、海行かなきゃ」
「まあそうだな」




「ね、晋助」
「なんだ?」
「この前の海、楽しかったね」
「そうだな。お前のカナヅチっぷりには爆笑したよ」
「う、うるさい!」
「次はどこに行きたい?」
「そうだなあ、次は旅行に行きたいなあ。避暑地!」
「ああ、じゃあ場所考えとけ」
「うん!」




「ね、晋助」
「なんだ?」
「誕生日おめでとう」
「ああ」
「晋助に出会えて、よかった」
「おう」
「生まれてきてくれてありがとう」




何度も巡る季節に君だけを置いてきてしまった。何度夏が訪れても、君を見つけることは出来なかった。君と過ごした短い時間を、俺は何度も繰り返し再生して、迷子になってしまった。君はどこにいるんだ。また夏が終わってしまう。




「わたし、晋助のお嫁さんになりたい。おばあちゃんになっても晋助と一緒にいたい。晋助といろんなところに行って、いろんな綺麗なものをみて、美味しいものたくさん食べて、いっぱい思い出つくるの。それでね、死ぬ間際にその思い出をひとつひとつ思い出して、楽しかったなあって思いながら死にたいの」




俺は、お前の願い全てを叶えてやる自信があった。なのに、突然いなくなりやがって。どうしていないんだよ、お前の大好きな夏なのに。




彼女が残した爪痕は消えないまま、俺の心臓をチクリと痛ませる。





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爪痕 / The Birthday


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