今日、梅の花が咲きました。もうすぐ春がやって参ります。


「万斉」

「名前。どうなさったか」

「晋助はどちらへ?」

「今日は春雨のところへ行っているでござるよ。帰りは明日になると」

「そう…」

「余りそんな顔をなさるな。せっかくの可愛い顔が台無しでござる」

「だって、もう1ヶ月も会ってないんですもの。京から戻ってやっと会えると楽しみにしていたのに、会う間もなく次は春雨の所とは…」

「晋助も忙しいのでござるよ。明日には会えるだろう、あと少しの辛抱だ」

「そうね…」

「それにしても、名前と晋助は本当に仲が良いでござるな」

「そりゃあもう、十何年も一緒に居ればねぇ。でもその分喧嘩だってしたのよ?」

「そんなこともあったか」

「晋助の浮気癖にこりごりした時期もあったわ。今じゃいい思い出だけどね」

「お互い大人になったということか」

「そういうことね」

「名前、」

「なあに?」

「梅の花が綺麗でござるな」

「ええ、ほんと。いつかこうやって、晋助と、鬼兵隊のみんなと、静かな縁側で花を眺める生活が出来たらいいな…。なんて、世の破壊を目論む過激派攘夷志士のいうことじゃないけど」

「だが、その先にきっと」

「そうね。わたしたちは不器用の集まりだものね」




いつか、いつか、そうやって思いを馳せても、わたしたちの守る場所はいつだってその先の世代。わたしたちは不器用だから、相互利益の叶った改革なんて出来なくて。悪役にしかなれなくても、それでもいいと、わたしたちは今の世を壊すのだ。



傷つけることしか出来なくて、ごめんなさい。それでもわたしたちは見据えている。その先の時代を。そんな思いはそっと隠して、最後まで悪を演じ抜く。




「名前、万斉」

「晋助! 明日帰るんじゃなかったの?」

「早く切り上げた」

「晋助、どうでござったか」

「まあまあだな」

「ね、晋助、梅の花が咲いたよ」

「そうか、もう春か」

「うん、また会えたね」

「そうだな」





春の訪れ

悪役に春は不似合い過ぎて笑っちゃうわ。


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