肌を刺すような冷たい風に身を震わせ、体育館の床を蹴る。本当に室内かと疑ってやまないくらいの寒さで、体育どころではないのが本音だ。今日の種目はバスケ。負けは許されないのだ。なんたって、賭け試合だから。負けたチームは体育館掃除。勝ったチームは早々と教室に戻れるのである。負けられない一戦、試合はまだ始まったばかりだ。


運動神経がいいわけではないので、わたしはゴール下で戦線を見守っていた。攻め込まれて守って反撃して、それを何度か繰り返すが未だ互いに得点には結びついていない。隣のコートでは男子もバスケの試合真っ最中だ。男子も体育館掃除を賭けた試合なのだろう。



ぼーっとしていた。男子のコートを見ながら。いつもは遊び調子なくせに、たまに真面目なところを見るとかっこよく見えるなあ、とか思いながら。大声で名前を呼ばれ、バスケットボールが飛んでくる。それをキャッチ、そしてシュート。決まった。歓声が上がり、試合終了のホイッスル、勝った。



「ナイスシュートだったわね」

「妙ちゃん、ありがとう」

「名前のおかげで暖かい教室に戻れるアル!」

「そんな、わたしあのシュートしかチームに貢献してないよ」

「ぼーっと男子のほう見てたしねぇ」

「ゴメンナサイ」

「まあまあ、さっさと教室戻るネ」

「うん」





妙ちゃんと神楽ちゃんと教室に戻っている最中、3Zの男子では誰がいいとか、彼氏は年上がいいとか、合コンしようとか、そんな女子高生らしい会話を楽しんでいた。ジンジンと痛む左手の人差し指に、気づかぬフリをして。




着替えを済ませふと痛むそこに目をやると、先ほどまでとはうって変わって青く腫れていた。



「うわっ…」

「どうしたの?」

「なんか、突き指してたみたい。結構、痛い…。」

「あら、腫れてるじゃない! 保健室行ったほうがいいわ」

「でも次の授業…」

「次は現国だし大丈夫よ。ほら、いってらっしゃい」





足に鉛でも付けているかのごとく、重く鈍い歩調で保健室へと向かう。決して保健室が嫌いな訳ではない。保健室は好きだし、というか保健委員でもあるし。ただ、保健医の先生とわたしは、いわゆるこここ恋人同士で、もちろんそのことは誰にも秘密で、学校では先生と生徒という立場をわきまえている。だが、今わたしは負傷している。あの過保護彼氏にこれが知れたら、とんでもなく面倒なことになるのは明々白々。気が重い。




保健室の扉を前にして、長いため息を吐く。引き戸をそっと開け、控えめに高杉先生、と呼んだ。


返事がない。鍵は開いていたからどこかへ煙草を吸いに行ったのだろう。こんなラッキーはない。さっさと湿布を拝借してテープで止めて逃げよう。そう決意してからは早かった。負傷したのが左手でよかったなどと考えながらテキパキ処置する。現国間に合う!銀ちゃんの授業意外と好きなんだよね〜。テープを切り、これで完璧。よし教室戻るぞ


と、振り返ったそこには、引き戸を開け壁に凭れるようにこちらを凝視する高杉先生。



「いいいいつから」

「そうだな、お前が必死に湿布と格闘してるあたりからか」

「えええ、それじゃあ手伝ってくれても…」

「最初はそのつもりだったんだがな、あんまり急いでたからよォ、そんなに俺に会いたくねェのかと思って傷心してたんだ」

「そんなことないよーただわたしは早く教室に戻らなきゃと思ってねー」

「ほォ、随分と優等生だなァ」

「でしょーえへへへへ」

「で、その左手人差し指はどうしたんだ? あァ?」

「ああ、あーこれは体育でちょーっと突き指したみたいで、すこーしだけ腫れちゃったの。でも大丈夫だよ、すこーしだけだから」

「出せ」

「へ?」

「いいからさっさと出せ! 突き指なめんなよお前どうすんだよヒビでも入ってたら!」

「ええ…」





瞳孔が開いてますよ先生、なんて言える訳が無く、されるがまま身を任せた。心配してくれるのはとても有り難いのたが、治療の後に長々と説教をされるのが面倒で…。いや、まあそれだけ愛されてるってことなんだろうけどね。






溺愛スパイス


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