2月を過ぎてもまだ寒さは厳しく、朝は凍えて外なんか出られたもんじゃない。だが船の朝はせわしなく人が行き交い、下働きの者がせっせと働いている。わたしはというと、幹部であるのをいいことに、暖かい布団の中で朝食に呼ばれるのを待つ。


今日の朝食は何だろう。魚がいいなあ。温かいお味噌汁が飲みたいな。首の下にある逞しい左腕と、腰に巻かれた右腕、そして背中に感じる温もりに頬が緩むのを抑えながら、ゆっくりと寝返りを打つ。



昨日わたしが布団に入ったときには居なかった。春雨のところに行って朝頃帰ると万斉は言っていたが、まさか目が覚めたら抱きしめられているとは。固く閉ざされた右目と弛んだ包帯。寝顔でも怖い顔してる。どんな夢を観ているのだろう。こうやってまじまじと綺麗な顔を見つめると、憎らしいくらいかっこよくてむかつく。


白く綺麗な頬に指を這わすと瞼がピクッと揺れたが、どうやら起きてはいないらしい。弛んだ包帯の下に指を入れ、左目に触れる。ここに触れるのを許されているのはわたしだけ。



「…名前」

「ん、おはよう、晋助」

「ああ、はよ」

「いつ帰ったの?」

「夜中」

「そう、早かったのね」

「名前に会いたくて早く終わらせた」

「いつになく素直ね、今日は」

「照れてんのか」

「て、照れてないもん、別に」

「ふーん」



寝起きの掠れた声でクツクツと笑う彼は随分と機嫌がいいようだ。さっきわたしがしたように、晋助の指がわたしの頬を這う。頬から耳の下へゆっくりと移動する掌の温かさを感じながらそっと目を閉じる。唇にほのかな熱を受け、束の間の至福。手を晋助の肩に添えると、仰向けにされ身体を布団に縫い付けられた。見上げればニヤリと口元に笑みを浮かべている獣が一匹。おいちょっと待て、わたしは朝食が、



「ねえ晋助」

「なんだ」

「もうすぐ朝食が出来る頃だわ」

「そうだな」

「ほら、じゃあそろそろ行きましょう?」

「そりゃあ後回しだ」

「なんで?」

「目の前のモン食ってからな」

「ちょ、晋助、あっ、ひゃぁ」

「ククク、いただきます、っと」




朝から元気な狼さんですこと。たくさん赤い印を散らし、たくさんわたしを揺さぶって、満足そうに微笑む彼。まだまだ、わたしたちも若いようだ。恋い焦がれて何十年連れ添ってきたけれど、飽きることのないこの行為にじりじりと溶かされていく。





微睡みに溶解


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