21:『edge』 8 / 8

 ふん、という効果音が付きそうなそっぽの向き方をした詠ちゃん。
 葛原先輩がニコニコと首を傾けて、話し始める。


「凪ちゃんが楽しそうにしてただけよぅ」
「それは俺らに喧嘩売ってるってことでいいんスかね」
「……そうなんじゃなぁい?」
「よく分かりました。おら、行くぞ」


 弥生先輩が登くんの腕を引く。
 不満げな顔を浮かべた登くんに、呆れたような表情を浮かべた。

「こんなとこいつまでいたってしゃーねーだろ? さっさと戻るぞ。美幸、立てるか?」
「は、はい……」


 弥生先輩に手を引かれて私も立ち上がった。
 刹那、御小原くんと視線が交わる。彼は、目を細めてまた笑った。

 扉の直前で、弥生先輩が4人の方へと向き直る。


「売られた喧嘩は買ってやる、後でベソいて謝ったって遅ぇからなクソ共」


 そう、吐き捨てて。
 扉を勢いよく閉じる。私達が今いるのは、静まった廊下だ。


「視聴覚室戻るぞ」


 そう顎で示す弥生先輩とは相反して、登くんは立ち止まった。


「ごめん、星尾さん、ごめん」


 彼は俯いてそう繰り返す。
 表情なんか、見えなくて。
 どんな思いで、どんな顔で。そう言っているのかなんて私には理解できやしなかった。


「私は、だ、大丈夫……」
「……ごめん、俺のせい、っで、ごめッ……」


 私の言葉なんて聞こえてないのだろうか。
 私の言葉なんて彼には届かないのだろうか。

 登くんは謝罪を繰り返し続ける。
 どんな意味のごめんなんだろう。

 仲良くなってごめんとか、そんなことなのかな。
 出会ってごめんみたいな、そんなこと。
 私を好きになってごめん、みたいなこと。

 
 私が彼を好きになったことを否定されてるみたいだ。



 弥生先輩が少し俯いてから、顔を上げて口を開いた。



「今日は帰るか、美幸。俺が送るわ」


 謝らないでよ、登くん。
 その言葉が私に届くたびに、私の気持ちが、殺されていくみたいだ。






<next story*泣いてもいいよ>






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