19:これを恋だと呼ばずして、 3 / 12

「あー、香月くんみっけー」


 女の人の言葉に香月くんの表情が嫌そうなものになっていく。

「その女の子誰ぇ?」

 にこりと優しく女の人は笑顔を浮かべた。
 そんな可愛らしい笑顔が向けられている本人は、至極嫌そうで、逃げたそうな表情だった。
 何かあったのかな。

 がしり。
 焦ったような笑顔を浮かべた香月くんは私の肩を掴んだ。
 ちょっと痛い。


「かっ、彼女です!!」


 えっ、と声が出そうになったけど何となく香月くんの思惑が分かって声を抑える。
 香月くんはおそらくこの女の人から逃げたいのだ。

 廊下に響き渡った言葉を聞いて、女の人は首をきょとりと傾けた。


「嘘つかなくてもいいんだよぉ?」


 はいバレてるー! 速攻バレてるー!
 ちらりと香月くんを見ると同時に、彼の顔が近付いてくる。
 顔が、近い。

 そのまま容赦なく唇が重なる。
 私の気持ちなんか気にしてませんよって感じで、目を瞑った香月くんの整った顔が間近に映る。あぁまつ毛、長いなぁ。って、そんな場合じゃなくて。

 何だか突き飛ばす気にもなれなくて、そのままでいてどのくらいの時間が経ったのかは分からない。
 兎も角、顔が離れてぱちりと目が合ってやけに恥ずかしく思えた。


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