c:アンチラフメーカー 3 / 9 「着替えてきますね」 そう言って魚住さんは奥へと消える。 叔父に「お前も準備しろ」なんて引っ張られた。更衣室に投げ込まれる。 「むーちゃん乱暴だー!」 「むーちゃんっつーなせめて弘夢さんと呼べ、クビ飛ばすぞ」 「待って! ここにいる条件ってここで働くことでしょ!? 可愛い甥を路頭に迷わす気!?」 そんなことを言えば「馬鹿言ってねぇでさっさとしろ」だなんて言われる。 更衣室に追いやられて、俺は頬を膨らませてからロッカーを少し乱暴に開けた。 「あぁそうだ、香月くん甘いもの好き?」 「うん? うん! あっ、はい!」 「友達に貰ったんだけど俺今食べる気分じゃないから。あげる」 そう言って笑顔で渡されたのは小袋に入ったチョコレートだった。春とはいえやや暑い今だったら少し溶けているかもしれない。 先に行った魚住さんの背中を見送ってからチョコレートを口に含む。 やけに甘い。少しだけ溶けていたそれは少しだけ歯にまとわりついた。 ロッカーについている鏡を通して自分とにらめっこ。 口元を歪めてみて、笑顔なんかを作ってみた。 「……俺も」 上手く笑えてるかな。魚住さんみたいに。 自然に、笑えてるのかな。 なんて。気持ち悪い笑みをのくせに。 「……行きますか!」 ぱちりと頬を叩いて着替え、今日も仕事を頑張りましょう。 前日と同様に、笑顔を浮かべてお店の方へと足を踏み出した。 ―― ― … じりじりと太陽が体に焼け付くような気温が毎日続く。 そのくせ学校はクーラーなんて微動だに仕事していなくて、ぼたりぼたりと無様に汗が零れ落ちるだけだった。 団扇で扇いだって生ぬるい風が髪の毛を揺らすだけだ。これっぽっちも涼しくない。 「購買で何か買ってくるわー」 ≪≪prev しおりを挟む back |