b:アンチフレンド 2 / 7



「魚住の歌声まじやべぇじゃん、うちのバンドボーカルいねぇのよ、入ろうぜ?」
「いや……俺はバイト忙しいし、歌上手くもねぇし……」
「上手ぇだろ、舐めてんのか。バイトォ? ちょこっと両立しようぜ」

 入学から数ヶ月が経って、それでも俺はまだ赤羽弥生につきまとわられていた。バンドというものにしつこく誘われている。

 周りにいた友人には「大変だな」と遠巻きから笑われて。
 担任の先生からは密かに「友人は選べよ」なんて怪訝な顔で告げられた。



 数か月という時を経て、赤羽が悪い奴ではないのはわかってる。

 不良っぽいくせに喧嘩をするわけでもない。
 みんなが知らないだけで、困ってる奴がいれば助けようとする。

 笑うときはちゃんと笑う。つられて笑いそうになりそうなほど、明るく笑う。


 それでも俺は、あまり関わりたくないと思ってしまうのだ。
 周りの目が気になるから。
 友達や教師から俺まで変な目で見られてしまうから。

 そんなこと、思ったりして。


「魚住ー」

 友人に話しかけられて、赤羽から目を逸らしそちらを向く。

「何?」
「数学当てられっからさー、見して」
「あぁ、いいよ。机ん中に入ってる」

 そう言えば相手は「サンキュー」と言って離れていく。
 赤羽はそいつを一瞥してから俺を見た。

「あいつって、お前にとって何?」
「は? ……友達、だけど」


 俺の言葉に、赤羽は「ふは」と眉を下げて笑った。
 クラスメートはほとんどこっちを見ておらず、そいつが笑ったのなんか誰も気が付かない。


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