豊平はカッターをいちるに半ば無理やり持たせて、笑顔を作る。
胡散臭いほどに、気持ちの悪い笑み。
いちるは泣きそうな顔で首を横に振る。
そんな様子を、田中はいとも当たり前のことかのように見ていた。
我関せずと言わんばかりに。
「……無理、っごめっ、なさっ」
否定と謝罪を彼女は繰り返す。
耐えきれなくなった涙がぼろぼろと瞳からこぼれていく。
豊平はそんないちるを見て、彼女の肩に手を置いた。
泣いている少女を慰めるようなその行動は、周りの不安を煽るだけの行為に過ぎなかった。
「優しいな津田川は」
文章で書けば括弧に笑いが入っていそうな声色で。
いちるの肩を掴む力を強めたのだろう、彼女の制服の肩部分に皺が広がる。
「じゃあやっぱりお前が苦しむか? あぁ、じゃあここで公開プレイとかでもいいんだぜ? お前の大好きな松室、どんな顔すると思う?」
そいつは取り敢えず私たちの関係をぐちゃぐちゃにしたいようで、手段は問わないと言いたいようだ。
陽那は眉間の皺を濃くして舌打ちをした。
とうとう我慢しきれなくなったようで、他人の机にぶつかるのも厭わずに豊平へと近付きそいつの胸ぐらを掴んだ。
「いい加減にしろ豊平」
「はぁ? 何がぁ?」
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