あぁ。
豊平は楽しそうに口を歪めて陽那を見る。
クラスは嫌に静まっている。
「そうだなぁ、津田川を虐めるのは酷いよなぁ? 津田川ぁ、やっぱ松室刺せや」
「……え?」
静かな教室にいちるの動揺した声が反響する。
陽那が僅かに、彼女から目を逸らした。
「できるよなぁ? 自分にやんなくていいんだ、嬉しいだろ? なぁ?」
頭がおかしいのではないか、なんて今更で。
最低なぐらい、豊平は笑顔を濃くしていく。
クラスメートは何も言わない。
上位は興味なさそうに、中間は脅えるように、下位は嫌悪の表情を浮かべるだけ。田中はただ仮面のような笑顔を張り付けていた。
「やっ、めなよ!」
「下位は黙ってろよクソ中里」
ヒロの言葉に豊平は少年を睨みつける。
ヒロは脅えたように肩を揺らして俯いた。
「できないのかぁ? あぁ、そうだよなぁ津田川は松室のことが好きだもんなぁ?」
恋愛ごとなどよっぽど口の軽い人間がいない限り、相手本人のいる前で発言することなどないのだろう。
[8/17]
[*prev] [next#]
[mokuzi]
[しおりを挟む]