思っていたよりも足が速くて、追いつけない。





着いたのは案の定、プール。



プールはここ数年使われていなくて、そこは汚かった。

雨水が少し溜まっていて、苔と一緒に水の色を濁らせている。



緑のような、茶色のような。

とにかく、普通の人なら気持ち悪がりそうな水の色。




なのに、中里は迷わずそこに制服のまま飛び込んだ。



「な、中里!」




膝あたりまで沈んでいる。

更に、探すために屈んで、手を突っ込んで。



プール脇から、彼の名前を呼んで制止する。



「豊平に賛同してるわけじゃないけど……また、買ってもらえばいいじゃん、そこまでやらなくても……!」



私の声は届いたのか。

少年はふるふると首を横に振った。



目が合う。


中里は、笑う。




「……できないよ」



口をゆっくりと動かしているのを、見ているしかできなかった。



「形見、なんだ。
兄ちゃん、もう、いないから」





膝まで汚れた水につかった少年は、ただ、赤い顔で泣くのをこらえるように笑った。






――いない。
亡くなってしまって、いるのか。


形見。




大切なもの、に決まってる。





……事情を知らなかったとはいえ諦めろといった意味の言葉を放ってしまうなんて酷いことを言ってしまった。




ごめん。
そんな言葉はでなくて、上に着ていたベストとカーディガンを脱いでネクタイを外す。


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