「なぁ、何で大切なの?」
豊平が楽しそうにピアスを眺める。
中里は、ゆっくりと口を開く。
「……兄ちゃんの、だから」
お兄さんの?
お兄さんにもらった、ということか?
片方だけ?
「へぇ、へぇ、そう。ブラコンなのな」
ぱ、と豊平はピアスを摘むように持った。
あ、駄目だ。
こいつ、返すつもりなんてない。
嫌な予感がして豊平を止めようとした。
けれど、一歩間に合わず。
豊平は窓を開けてそれをぶん投げた。
窓から見えたそれを呆然としたまま目で追いかけるとぽちゃり、と少し離れたプールに沈む。
「はい、ナイッシュー!」
「何やってんのよ!」
中里は目を開いて、泣きそうな表情だった。
「いーだろ?また買ってもらえよ、オニーチャンに」
中里は俯いて、勢いよく教室を飛び出した。
私は思わず彼を追いかける。
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