「ちょっとついてこい」
馬鹿にしたような顔しやがって。
手に持っている箒を置いて、そいつについて行こうとした。
その時。
「あーねぇねぇ、俺、香恋ちゃんと話したいことあるんだけど。今日は譲ってくれないかな、浩介」
私の手を引っ張った、五十嵐。
なぁにこれモテモテ?私モテモテ?全然嬉しくない。
「はぁ?」
「命令じゃない、お願いだよ」
五十嵐は目を細めて豊平を見る。
豊平は舌打ちをしていなくなった。
お願いという名の強制だよね。
だって1位じゃん五十嵐。
「じゃあ、香恋ちゃんは借りてくから、ごめんね、掃除お願いねぇ」
五十嵐が掃除当番に笑いかけて、私の手を引いて歩き出した。
「……私はあんたとなんか話したいことなんてないんだけど」
歩いて、歩いて。
ついたのは人のいない教室。
俺からはあるんだよ、と笑顔を崩さない。
五十嵐は、豊平のような怖さはないけれど。
……笑顔がうさんくさくて、気味が悪い。
どうも上位の人間はまず人間性からして好きになれそうにない。
「君に1つ、忠告をしてあげよう」
黒く塗られた爪に光が反射する。
人差し指を口元にやって、小さく、呟いた。
細められた瞳が恐怖心を煽る。
「君のその中途半端な優しさは、周りの人間を傷付けるだけだよ」
中途半端な優しさ。
そんなもの、持ってない。
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