五十嵐はちらりと古本さんの方を見てから、視線を豊平に向けてにこりと笑った。

「俺のことだよねぇ? あぁ、俺はそれでも構わないけれど」


 自身が犠牲になるのに笑顔を浮かべたままの五十嵐が、やけに、気持ち悪く思えた。
 田中が、呆れたような表情を浮かべたのが見て取れた。
 段々、手に負えない問題児が増えてきたとでも言いたげな表情だ。

「まぁそれでも、いいかな。怠慢はいけないからね」


「てめぇが今まで無視してきたやつのオンパレードでもするかよ?」

 豊平は嘲笑うようにそう告げる。
 五十嵐は笑顔で、首を傾けて立ち上がった。
 立ち上がったのはどうしてだろう。豊平とコンタクトを取りやすくするためだろうか。きっとそうなんだろう。

「裸、にはならなくてもいいよねぇ? 俺は恥じらうことは皆無だし、女の裸と違って価値なんぞないもの」

 くすくすと笑って五十嵐はペンケースに手をかけた。
 文房具一式が揃っているのかもしれないそれからカッターを取り出して、かちかちかち、と刃を露にした。
 躊躇いなく五十嵐は自身の右手にカッターを突き立てて、僅かに表情を歪ませる。
 手加減も何も無い。残酷に突き刺さるその音がそれを告げる。
 血がぶしゅりと吹き出して、机を濡らした。   


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