「……人殺しなんて、してないんでしょ?」
そうだ。こいつが人を殺すはずない。
五十嵐は人を傷つけるような人間ではないことはこの数ヶ月で理解出来た。
きっと、事故かなにかにまきこまれて、豊平が勘違いしているのだろう。
目の前の男は、笑って。
嘲笑して、右手を私へと差し出した。
その行動を私は理解出来ない。
掴めば、良いのだろうか。何故。
「俺は確かに、人を殺したよ、この手で」
残酷さも優しさもない、何も感情のない声で五十嵐はそう言った。
目の前の彼は、私に向けているその手で確かに人を殺したのだと。
「君は本当に面白いね。俺のことは嫌いだと吐き出すくせに、やけに俺を買い被っているの」
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